子育て世代や教育現場において、冬から春にかけて頻繁に耳にする病名が溶連菌感染症と猩紅熱です。この2つは、全く別の病気であると誤解されがちですが、医学的には非常に密接な関係にあります。結論から述べれば、猩紅熱とは溶連菌感染症の一つの形態であり、特定の毒素によって全身に鮮やかな赤い発疹が現れる状態を指します。原因となるのはA群β溶血性連鎖球菌という細菌で、一般的には溶連菌と呼ばれます。この細菌が喉に感染し、強い痛みや発熱を引き起こすのが溶連菌感染症の基本症状ですが、その中でも特定の溶連菌が産生するエリスロゲニン、すなわち紅斑毒素という物質が血液を通じて全身に運ばれると、皮膚の毛細血管が拡張し、猩紅熱特有の赤い発疹が出現します。かつて抗生物質が普及していなかった時代、猩紅熱は致死率の高い恐ろしい法定伝染病として恐れられていました。しかし、現代ではペニシリン系などの有効な抗菌薬が存在するため、早期に治療を開始すれば重症化することはほとんどありません。溶連菌感染症との決定的な違いは、この「全身の発疹」と、舌の表面がブツブツと赤く腫れ上がる「イチゴ舌」という症状の有無にあります。通常の溶連菌感染症でも喉の赤みや腫れは見られますが、猩紅熱の場合はそれに加えて、首筋から胸、手足へと広がる細かくザラザラした発疹が特徴的です。この発疹は、指で押すと一時的に白くなるという性質を持ち、回復期になると皮が剥ける落屑という現象が起こります。また、猩紅熱という名前の由来は、その発疹の色が「猩々」という架空の動物の赤い髪や、深紅色を指す「猩紅」に似ていることから名付けられました。診断においては、喉の粘膜を綿棒で採取する迅速抗原検査が行われますが、これによって判明するのは溶連菌の有無であり、猩紅熱かどうかは臨床的な症状、つまり皮膚の状態を見て判断されます。治療法については、どちらの状態であっても溶連菌に対する抗菌薬の服用が基本となります。ここで最も重要なのは、症状が消えたからといって自己判断で薬を中止しないことです。溶連菌は完全に除菌しないと、心臓に影響を及ぼすリウマチ熱や、腎臓の機能を損なう急性糸球体腎炎といった深刻な合併症を引き起こすリスクがあるからです。2つの病名は言葉の響きこそ異なりますが、敵は同じ溶連菌という細菌であることを認識し、適切な診断と十分な期間の治療を行うことが、健康を守るための最短ルートとなります。
猩紅熱と溶連菌感染症の違いを正しく理解するための基礎知識