妊娠5週目、陽性反応が出て喜んだのも束の間、私は産院選びという迷宮に迷い込みました。インターネットで検索すると、ホテルのような豪華な個室とフレンチのフルコースを提供する都心の有名クリニックから、質素ながらも鉄壁の医療体制を誇る大学病院まで、選択肢が溢れていたからです。当時の私は34歳で、大きな持病もなく健康そのものでした。そのため最初は「出産は病気じゃないし、せっかくなら優雅に過ごしたい」と、内装の美しい個人クリニックに心を惹かれていました。そこはアロマトリートメントのサービスがあり、無痛分娩の実績も豊富で、何より家からタクシーで15分という好立地でした。しかし、一方で私の母は「何かあったときに怖いから、大きな病院にしなさい」と口癖のように繰り返しました。確かに、個人クリニックには小児科医が常駐していない場合が多く、赤ちゃんにトラブルがあった際には別の病院に救急搬送されることになります。悩んだ末に、私は両方の病院の見学に行き、初診を受けてみることにしました。個人クリニックの待合室は、まるで高級サロンのような静謐な空間で、スタッフの方々も非常に洗練されていました。一方の大学病院は、常に混雑しており、待ち時間も長く、診察室もどこか事務的な印象でした。しかし、大学病院の担当医が「当院にはあらゆる専門家が揃っています。どんな突発的な事態が起きても、ここで全て完結できるのが最大の強みです」と力強く語った言葉が、私の心に深く刺さりました。また、個人クリニックの費用を見積もったところ、手出しが40万円近くなるのに対し、大学病院は15万円程度で済むという経済的な差も明らかになりました。最終的に私が選んだのは、意外にも「安全と安心」を優先した大学病院でした。決断の決め手となったのは、自分が万が一の事態に陥ったとき、パニックにならずにいられるのはどちらの環境かという自問自答でした。結果として、私の出産は予定日を過ぎてからの緊急帝王切開となりました。あの時、もし個人クリニックにいたら転院の判断や搬送で時間を要していたかもしれないと思うと、大学病院を選んだ自分の選択に心から感謝しました。食事は確かに質素な病院食でしたが、経験豊富な助産師さんたちに囲まれ、何かあればすぐに専門医が駆けつけてくれる環境は、何物にも代えがたい安心感を与えてくれました。産院選びにおいて「何を最も重視するか」は人それぞれですが、私の場合は「最悪の事態を想定した安心感」が、最高のご褒美になりました。豪華な食事や綺麗な設備も魅力的ですが、自分の性格やリスク許容度を見極めることが、後悔しない産院選びの真髄なのだと痛感した経験でした。
都心の豪華な個人クリニックと大学病院のどちらを選ぶか迷った私の体験