私が自分の体の異変に気づいたのは、40代半ばを過ぎた頃でした。営業職で普段から重いカバンを持って歩き回ることが多く、ある日の夕方、入浴中に右の足の付け根にピンポン玉くらいのやわらかいふくらみがあるのを見つけたのです。痛みはなく、手で押すとグニュッと引っ込むため、「なんだろう、疲れかな」と、その日は深く考えませんでした。しかし、その後もふくらみは消えず、特に長距離を歩いた後や、くしゃみをした時に顕著になるのが分かりました。インターネットで「足の付け根 ふくらみ 男性」と検索して、すぐに「脱腸」や「鼠径ヘルニア」という言葉に行き着きました。症状が自分の状態とあまりに一致していたため、ほぼ確信しましたが、同時に「手術が必要」という文字を見て、途端に怖くなりました。仕事も忙しいし、入院する時間もない。何より、お腹を切るのが怖い。そんな思いから、私は見て見ぬふりを続けることにしたのです。しかし、ふくらみは数ヶ月かけて少しずつ大きくなり、ズボンに擦れて違和感を覚えるようになりました。常に「もし急に痛くなったらどうしよう」という不安が頭の片隅にあり、仕事への集中力も欠いていました。このままではいけない。そう決心し、ようやく近所の外科クリニックのドアを叩きました。医師は私の話を聞き、触診をするなり「典型的な鼠経ヘルニアですね。いわゆる脱腸です」とあっさり診断。そして、放置すると腸が詰まって壊死する「嵌頓」のリスクがあることを丁寧に説明してくれました。その言葉が、私の手術への最後の迷いを断ち切りました。紹介された専門病院では、腹腔鏡を使った傷の小さな手術ができると聞き、思い切って手術を予約。当日は、あっという間に手術が終わり、翌日には退院できました。術後の痛みも想像よりずっと軽く、一週間後には職場に復帰していました。今では、あのふくらみも、それに伴う不安もすっかり消え、もっと早く受診すればよかったと心から思っています。もし同じように悩んでいる人がいたら、伝えたいです。その一歩の勇気が、未来の安心に繋がります。
溶連菌による喉の痛みと特徴。風邪との違いとは？
つばを飲み込むことさえ躊躇するほどの、焼けるような喉の痛み。単なる風邪だと軽く考えていたら、それは「A群溶血性レンサ球菌」という細菌が引き起こす感染症、通称「溶連菌感染症」かもしれません。特に子供に多い病気として知られていますが、大人が感染すると重症化することもあり、正しい知識を持つことが重要です。溶連菌による喉の痛みは、一般的な風邪の症状とは一線を画す激しさがあります。風邪の喉の痛みが「イガイガする」「乾燥する」といった不快感であるのに対し、溶連菌の場合は、まるでガラスの破片を飲み込むような、鋭く突き刺すような痛みが特徴です。鏡で喉を見てみると、扁桃腺を中心に真っ赤に腫れあがり、白い膿のような付着物（白苔）が見られることも少なくありません。この強烈な咽頭痛に加えて、38度以上の高熱が急に出るのも典型的な症状です。全身の倦怠感や頭痛、関節痛を伴い、インフルエンザと間違われることもあります。しかし、溶連菌には風邪やインフルエンザには見られない、いくつかの特徴的なサインがあります。その一つが、体に現れる小さな赤い発疹です。特に、胸や背中、手足の付け根などに砂粒のような細かい発疹が広がることがあり、これは「猩紅熱（しょうこうねつ）」と呼ばれます。また、舌の表面がブツブツと赤くなり、まるでイチゴのように見える「イチゴ舌」も、溶連菌感染症に特有の所見です。風邪の多くはウイルスが原因であるため、抗生物質は効きませんが、溶連菌は細菌感染症なので、抗生物質による治療が非常に有効かつ必須です。治療が遅れたり、不十分だったりすると、急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった深刻な合併症を引き起こす危険性があります。激しい喉の痛みに加え、高熱や発疹などの症状が見られたら、自己判断で市販の風邪薬に頼るのではなく、速やかに内科や耳鼻咽喉科、子供の場合は小児科を受診し、適切な診断と治療を受けることが何よりも大切です。
大人がかかると地獄。私の溶連菌闘病記と喉の痛み
あれは忘れもしない、ある火曜日の朝でした。目覚めた瞬間、喉に感じたのは尋常ではない違和感。最初は乾燥のせいかと思いましたが、うがいをしても痛みは引かず、むしろ時間とともに悪化していきました。つばを飲み込むたびに、喉の奥をカッターで切りつけられるような激痛が走るのです。その日の午後には、体温計が39.2度を指していました。全身の関節がギシギシと痛み、立っているのもやっとの状態。これはただの風邪ではないと直感し、ふらふらの体で近所の内科クリニックへ向かいました。医師は私の喉を見るなり、「ああ、これは真っ赤ですね」と一言。インフルエンザの検査は陰性で、次に喉の粘膜を綿棒でこすって行う迅速検査を受けた結果、告げられた病名は「溶連菌感染症」でした。子供の病気というイメージが強かったため、まさか自分がなるとは思ってもみませんでした。医師からは「大人がかかると重くなることが多いんですよ」と言われ、その言葉の意味を身をもって知ることになります。処方された抗生物質と解熱剤を手に帰宅しましたが、本当の地獄はそこからでした。喉の痛みはピークに達し、水やお茶を飲むことすら苦行と化しました。食事はもちろん喉を通らず、ゼリー飲料を少しずつ流し込むのが精一杯。高熱と激しい頭痛で、夜もほとんど眠れませんでした。熱にうなされながら、ただひたすら痛みに耐える時間は、永遠に続くかのように感じられました。薬を飲み始めて3日目、ようやく熱が下がり始め、喉の痛みも少しずつ和らいできました。しかし、医師から「症状が良くなっても、合併症予防のために抗生物質は10日間必ず飲み切ってください」と固く言われていたため、薬だけは忘れずに続けました。完全に体調が戻り、普通の食事ができるようになったのは、発症から一週間以上経ってからのことです。この経験を通じて、私は溶連菌を完全に侮っていました。大人が感染した時の症状の重さ、そして確実に治療することの重要性を痛感しました。あの焼けるような喉の痛みは、二度と経験したくない、忘れられない記憶です。
溶連菌の喉の痛みを和らげる。家庭でできるケア方法
溶連菌感染症と診断され、抗生物質による治療が始まっても、あの耐え難い喉の痛みはすぐには消えてくれません。薬が効果を発揮し始めるまでの数日間は、つらい症状を少しでも和らげるためのセルフケアが非常に重要になります。医療機関での治療を補い、回復を助けるために、家庭でできる工夫をいくつかご紹介します。まず、何よりも大切なのが「喉の保湿」です。空気が乾燥していると、喉の粘膜が刺激され、痛みが悪化しやすくなります。加湿器を使用したり、濡れたタオルを室内に干したりして、部屋の湿度を50～60％程度に保つよう心がけましょう。マスクの着用も、自分の呼気で喉の湿度を保つのに効果的です。次に、「食事と水分の工夫」です。喉の痛みが強い時は、固形物を飲み込むのが困難になります。プリンやゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム、冷たい茶わん蒸し、ポタージュスープなど、喉ごしが良く、刺激の少ないものを選びましょう。熱すぎるものや、酸味の強いもの（柑橘系のジュースなど）、香辛料の効いたものは、喉を刺激して痛みを増強させるため避けるのが賢明です。水分補給は脱水を防ぐために不可欠ですが、一度にたくさん飲むと痛みがつらいので、少量ずつ、こまめに摂取することがポイントです。麦茶や経口補水液、常温のスポーツドリンクなどがおすすめです。また、「喉を安静に保つ」ことも忘れてはいけません。大きな声を出したり、長時間しゃべったりすると、喉に負担がかかります。できるだけ声を出さずに、静かに過ごしましょう。痛みを直接和らげる方法としては、「喉を冷やす」のが有効な場合があります。ビニール袋に入れた氷をタオルで包み、喉の外側から優しく冷やすと、炎症による熱感が和らぎ、痛みが少し楽になることがあります。ただし、これらはあくまで対症療法です。基本は、医師から処方された抗生物質を指示通りに服用し、体を休めること。これらのセルフケアを上手に取り入れながら、つらい時期を乗り切り、着実な回復を目指しましょう。