私の夫は50歳を過ぎた頃から、夜になるとコンコンと乾いた咳をするようになりました。もともと喉が弱い人で、風邪を引くと長引くタイプだったので、今回もまたいつものことだろうと思っていました。しかし、1ヶ月が過ぎ、2ヶ月が過ぎても夫の咳は治まるどころか、夜中に激しくむせ込んで顔を真っ赤にするほどになっていきました。日中は元気に会社へ行き、食事も普通に摂っていたので、夫自身は「ただの加齢による喉の衰えだ」と言い張って聞き入れませんでした。妻である私の不安が確信に変わったのは、夫が寝ている時の呼吸に、微かに笛が鳴るような高い音が混じり始めた時です。肺がんという言葉が頭をよぎり、私は半ば強引に夫を近くの呼吸器科へ連れて行きました。待合室で「大袈裟なんだよ」と不機嫌そうにしていた夫でしたが、胸のエックス線写真を見た医師の顔色が少し変わったのを見て、二人で凍りつきました。結果として、夫の右肺の上部には初期の肺がんが見つかりました。幸いなことに、まだ転移はなく、手術で取りきれる段階でした。あの時、もし私が「本人が大丈夫と言っているから」と見過ごしていたら、今頃どうなっていたかと考えると、今でも足が震えます。家族としてできることは、本人の「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、客観的な変化を観察し続けることです。夜の咳は本人にとっても辛いものですが、慣れてしまうと本人は無意識にその苦痛を過小評価してしまうことがあります。夜の咳に加えて、最近疲れやすくなったのではないか、声のトーンが変わっていないか、といった些細な変化を一番近くで見ている家族が気づいてあげることが、早期発見の最大の鍵となります。受診を拒む家族に対しては、「安心を買うために行こう」とか「私の不安を取り除いてほしい」といった伝え方をすることで、本人のプライドを傷つけずに病院へ向かわせることができるかもしれません。肺がんは孤独な戦いになりがちですが、その始まりである「夜の咳」に気づき、共に病院の門を叩く家族の存在こそが、何よりも強力な治療薬になるのだと実感しています。
家族の咳が夜になると酷くなる不安と向き合い受診した記録