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原因②冷房が引き起こす「自律神経の乱れ」と下痢
夏の快適な生活に欠かせない冷房(エアコン)。しかし、この文明の利器が、実は夏の体調不良、特に下痢の大きな原因となっていることがあります。屋外の35度を超える猛暑の世界から、25度前後の冷房が効いた室内へ。この10度以上にもなる急激な温度差に、私たちの体は悲鳴を上げています。この温度変化のストレスに最も影響を受けるのが、体温調節や内臓の働きをコントロールしている「自律神経」です。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取り合うことで、私たちの体は健康を維持しています。暑い屋外では、体は汗をかいて熱を逃がすために副交感神経が優位になります。しかし、冷えた室内に入ると、今度は体温を逃さないように血管を収縮させるため、交感神経が急激に活発になります。このように、一日のうちに何度も激しい温度差に晒されることで、自律神経のスイッチングが過剰になり、やがてそのバランスが崩壊してしまうのです。これが、いわゆる「冷房病(クーラー病)」や「自律神経失調症」と呼ばれる状態です。そして、自律神経の乱れは、胃腸の働きに直接的な影響を及ぼします。胃腸の蠕動運動は、主にリラックスしている時に働く副交感神経によってコントロールされています。しかし、自律神経のバランスが崩れると、このコントロールが効かなくなり、腸の動きが異常に活発になったり、逆に鈍くなったりします。特に、ストレスなどで交感神経が過剰に優位になると、腸の動きが過敏になり、痙攣(けいれん)性の収縮を起こしやすくなります。その結果、便が正常に腸内を進むことができず、水分が十分に吸収されないまま排出されることで、下痢を引き起こしてしまうのです。また、体の冷えそのものが、血行不良を招き、消化機能を低下させることも、下痢を助長する要因となります。対策としては、まず室内外の温度差を5度以内にとどめるのが理想です。職場の冷房が強すぎる場合は、カーディガンやひざ掛け、ストールなどを常備し、首、手首、足首といった「三首」を冷やさないように工夫しましょう。食事では、ショウガやネギ、唐辛子といった体を温める食材を意識的に摂ることも有効です。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かる入浴は、乱れた自律神経のバランスを整えるのに非常に効果的です。
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しつこい咳と発熱「急性気管支炎」との違い
高熱と咳という症状は、気管支に炎症が起こる「急性気管支炎」でも見られます。肺炎との違いは、炎症の主座がどこにあるかです。気管支炎は、喉と肺をつなぐ空気の通り道である「気管支」の粘膜が炎症を起こす病気であり、肺炎のように肺胞でのガス交換に直接的な障害が起こるわけではありません。しかし、症状が似ているため、鑑別が重要になります。急性気管支炎の最も一般的な原因は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスといった「ウイルス感染」です。風邪(急性上気道炎)に続いて発症することが多く、最初は乾いたコンコンとした咳から始まり、次第に痰が絡むゴホゴホとした湿った咳に変化していくのが典型的な経過です。発熱は、高熱が出ることもあれば、微熱程度で済むこともあり、様々です。全身の倦怠感や頭痛を伴うこともあります。気管支炎と肺炎を見分けるための重要なポイントは、「胸の痛み」と「呼吸困難」の有無です。気管支炎では、激しい咳によって胸の筋肉が痛むことはあっても、肺炎に特徴的な、深呼吸で響くような胸痛(胸膜痛)は通常ありません。また、安静にしていても息が苦しい、というような呼吸困難も、気管支炎では稀です(喘息を合併している場合を除く)。受診すべき診療科は「内科」または「呼吸器内科」です。医師は、まず聴診器で胸の音を聞き、肺炎を示唆する異常な音(ラ音など)がないかを確認します。そして、肺炎との鑑別が難しいと判断した場合には、胸部X線(レントゲン)撮影を行います。レントゲンで肺に異常な影がなければ、気管支炎と診断されます。急性気管支炎の多くはウイルス性が原因であるため、抗生物質は効果がありません。治療は、つらい症状を和らげる「対症療法」が中心となります。咳を鎮めるための鎮咳薬、痰の切れを良くするための去痰薬、熱や痛みに対する解熱鎮痛薬などが処方されます。何よりも大切なのは、十分な休養と、喉を乾燥させないためのこまめな水分補給です。通常、発熱は数日で治まり、咳も1~3週間程度で改善に向かいますが、咳だけが長引く場合は、他の病気(咳喘息や百日咳など)の可能性も考える必要があります。
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首の痛みに悩んだら、まず何科?原因を見極めるための診療科選び
長時間のデスクワークやスマートフォンの操作、あるいは朝起きた時の寝違えなど、多くの人が日常的に経験する「首の痛み」。このありふれた症状の裏には、単純な筋肉の疲労から、骨や神経の深刻な病気、さらには内臓のトラブルまで、実に多岐にわたる原因が隠されています。そのため、適切な治療を受けるためには、自分の首の痛みの原因が何であるかを推測し、正しい診療科を選ぶことが何よりも重要になります。結論から言うと、首の痛みの診断と治療において、中心的な役割を担う診療科は「整形外科」です。整形外科は、首の骨(頸椎)や、その間にある椎間板、そして首周りの筋肉や靭帯といった「運動器」の専門家であり、首の痛みの原因の多くがここに集約されます。寝違えや、加齢による頸椎の変形、頸椎椎間板ヘルニアなどがその代表です。しかし、症状によっては、他の診療科の受診が必要となるケースもあります。例えば、手足のしびれや歩行障害といった神経症状が強い場合は、「脳神経外科」や「脳神経内科」が関わってきます。また、発熱やリンパ節の腫れを伴う場合は、感染症などを考え「内科」や「耳鼻咽喉科」が、強いストレスが関与している場合は「心療内科」が選択肢となることもあります。さらに、稀ではありますが、心臓の病気(狭心症など)の痛みが首に放散することもあるため、その場合は「循環器内科」での精査が必要です。このように、首の痛みは体からの重要なサインであり、どの診療科を受診すべきかを見極めるためには、痛みの性質や始まったきっかけ、そして他にどのような症状があるかを注意深く観察することが非常に重要になります。この記事シリーズでは、症状別に考えられる原因と、それぞれに対応する専門診療科について詳しく解説していきます。
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原因①冷たいものの摂りすぎが招く「消化機能の低下」
厳しい暑さが続く夏、火照った体を冷やそうと、氷の入った冷たい飲み物を一気に飲み干したり、アイスクリームやかき氷に手が伸びたりするのは、ごく自然なことです。しかし、この「体を冷やす」という行為が、胃腸にとっては大きな負担となり、下痢の直接的な原因となっていることが少なくありません。私たちの体、特に内臓が正常に機能するためには、37度前後の適切な温度が保たれている必要があります。ここに、急激に冷たい飲食物が大量に流れ込んでくると、胃腸は文字通り「冷やされ」てしまいます。胃腸が冷えると、まず胃壁や腸壁を通る毛細血管が収縮し、血流が悪化します。血流が悪くなると、消化活動に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなり、胃腸全体の動き、すなわち蠕動(ぜんどう)運動が鈍くなってしまうのです。さらに、食べ物を分解するために不可欠な「消化酵素」は、一定の温度で最も活発に働きます。体温が低下すると、これらの消化酵素の働きも著しく低下してしまいます。その結果、食べたものが十分に消化されないまま、腸へと送られてしまいます。未消化の食物は、腸にとっては「異物」であり、腸壁を刺激します。また、腸内の悪玉菌のエサとなり、異常発酵を起こしてガスを発生させることもあります。すると、体はこれらの消化不良物を一刻も早く体外へ排出しようと、腸の蠕動運動を過剰に活発化させ、さらに腸管内へ水分を大量に分泌します。この結果、便の水分量が多くなり、固まる前のドロドロ、あるいは水のような状態で排出される「下痢」が引き起こされるのです。これが、冷たいものを摂りすぎた時に起こる下痢のメカニズムです。対策は非常にシンプルです。まず、飲み物はキンキンに冷えたものではなく、できるだけ常温に近いものを選ぶように心がけましょう。どうしても冷たいものが飲みたい場合は、一気にがぶ飲みするのではなく、口の中で少し温めるように、ゆっくりと時間をかけて飲むことが大切です。また、食事の際は、冷たいものばかりでなく、温かいスープや味噌汁などを一品加えることで、胃腸の冷えを和らげることができます。夏の胃腸を守るためには、「急激に冷やしすぎない」という意識が何よりも重要です。
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ヘルパンギーナの喉の激痛の正体
ヘルパンギーナにかかった人が、大人であれ子どもであれ、異口同音にそのつらさを訴えるのが、尋常ではない「喉の痛み」です。経験者の中には「ガラスの破片を飲み込むようだった」「喉を焼きごてで焼かれているかのようだった」と表現する人もいるほど、その痛みは激烈です。では、なぜヘルパンギーナの喉は、これほどまでに壮絶な痛みを引き起こすのでしょうか。その痛みの正体は、喉の奥の粘膜、専門的には軟口蓋や口蓋弓と呼ばれる、のどちんこの周辺に多発する「小水疱」と、それが破れた後にできる「アフタ性潰瘍」にあります。ヘルパンギーナウイルスに感染し、体内で増殖を始めると、まず喉の奥の粘膜に、充血して赤くなった小さな斑点が多数出現します。これが炎症の始まりです。そして、その赤い斑点の中心部が、まるで露のようにぷくっと盛り上がり、白っぽい水ぶくれ(小水疱)へと変化します。この水疱の壁は、頬の内側にできる口内炎などと比べても非常に薄くてもろいため、食事や飲み物、あるいは自分の唾液が触れるといった、ごくわずかな物理的な刺激ですぐに破れてしまいます。水疱が破れた後の粘膜は、表面の上皮が剥がれ落ち、下の組織がむき出しになった、いわゆる「びらん」や「潰瘍」の状態になります。これが、白く見える浅い口内炎の正体です。この痛々しい潰瘍が、喉の奥の狭い範囲に、多い時には十数個も同時に、密集してできるため、何もしなくてもジンジンと痛む「自発痛」と、何かを飲み込もうとした時に粘膜がこすれて生じる、鋭く突き刺すような「嚥下痛」が、常に患者を苦しめることになるのです。特に、食べ物や飲み物に含まれる酸や塩分、香辛料は、むき出しになった潰瘍の神経を直接刺激するため、激痛を誘発します。この激痛のピークは、発症してから2日目から4日目あたりに訪れます。この時期を乗り越え、潰瘍の上皮が再生し始めるまでの数日間が、ヘルパンギーナとの戦いにおける最大の山場と言えるでしょう。
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ストレスが原因?心因性の首の痛みと心療内科
整形外科や脳神経外科で、レントゲンやMRIなどの精密検査を受けても、「骨や神経には特に異常はありません」と言われる。しかし、実際には首の痛みやこり、頭痛、めまい、吐き気といった、つらい症状がずっと続いている。このような、明らかな身体的な原因が見つからないにもかかわらず、不快な症状が慢性的に続く場合、その背景には「心理的ストレス」が大きく関与している可能性があります。このような状態は、時に「心因性疼痛」や、自律神経のバランスの乱れが関わる「自律神経失調症」の一症状として捉えられます。この場合に、相談先として考えられるのが「心療内科」や「精神科」です。私たちは、仕事上のプレッシャーや、人間関係の悩み、家庭内の問題など、様々な精神的ストレスに晒されると、無意識のうちに体に力が入ってしまいます。特に、首や肩周りの筋肉は、緊張や不安の影響を受けやすく、常にガチガチにこわばった状態になりがちです。この持続的な筋緊張が、血行不良を引き起こし、筋肉内に疲労物質や発痛物質を溜め込み、慢性的な痛みやこりの原因となるのです。また、ストレスは、脳内の痛みをコントロールする神経系の働きにも影響を及ぼします。通常であれば気にならない程度の軽い刺激でも、脳がそれを「強い痛み」として認識してしまう、「痛みの悪循環」に陥ってしまうのです。さらに、ストレスは自律神経のバランスを乱し、頭痛、めまい、吐き気、動悸、不眠といった、多彩な身体症状を引き起こします。心療内科では、まず患者さんの話をじっくりと聞く「カウンセリング」を通じて、症状の背景にあるストレス要因や、心理的な葛藤を探っていきます。そして、治療としては、まず患者さん自身が、自分の症状とストレスとの関連に気づき、受け入れることが第一歩となります。その上で、ストレスを軽減するための環境調整や、物事の捉え方を変えていく認知行動療法、あるいは心身の緊張を解きほぐすためのリラクゼーション法(自律訓練法など)といった、心理的なアプローチが行われます。薬物療法としては、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬や、痛みの悪循環を断ち切る効果が期待できる「抗うつ薬」、あるいは不安感を和らげる「抗不安薬」などが、症状に応じて慎重に用いられます。原因不明のつらい首の痛みが続く場合は、「心」の側面からアプローチしてくれる心療内科への相談も、解決への重要な選択肢の一つです。
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手足のしびれや歩行障害を伴うなら脳神経外科・脳神経内科へ
首の痛みに加えて、「手足のしびれ」や「歩きにくさ」といった症状が現れた場合、それは単なる首の痛みではなく、中枢神経である「脊髄」そのものが圧迫されている可能性を示す、非常に重要なサインです。このような重篤な神経症状を伴う場合は、整形外科だけでなく、「脳神経外科」や「脳神経内科」といった、脳・脊髄神経の専門家による診察が必要となります。整形外科で扱う頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症でも、神経の圧迫が腕へ向かう「神経根」ではなく、脊髄本体に及ぶことがあります。これを「頸椎症性脊髄症」と呼びます。この場合、腕や手のしびれだけでなく、足にも症状が現れるのが特徴です。具体的には、「両手の指がうまく動かせない、箸が使いにくい、字が書きにくい、ボタンがかけられない」といった、細かな手の動作の障害(巧緻運動障害)や、「足がもつれるように歩きにくい、階段の上り下りが怖い、何もないところでつまずく」といった歩行障害、さらには「頻尿や残尿感」といった排尿障害が見られることもあります。また、交通事故などの強い外力によって脊髄が損傷する「頸髄損傷」や、脊髄の中に腫瘍ができる「脊髄腫瘍」、あるいは脊髄に炎症が起こる病気などでも、同様の症状を引き起こすことがあります。これらの病気は、放置すると症状が進行し、四肢麻痺など、回復困難な後遺症を残す危険性があります。そのため、早期の診断と、原因に応じた適切な治療が不可欠です。脳神経外科や脳神経内科では、MRI検査によって脊髄の圧迫や損傷、異常の有無を詳細に評価します。そして、頸椎症性脊髄症や一部のヘルニア、脊髄腫瘍など、手術による神経の除圧が必要と判断された場合は、「脳神経外科」が手術治療を担当します。一方、炎症性の疾患など、薬物治療が中心となる場合は、「脳神経内科」が治療の主導権を握ります。実際には、整形外科と脳神経外科・内科は、互いに協力し合いながら治療にあたることが多く、どの科を受診しても、必要に応じて適切な科へ紹介されることがほとんどです。しかし、手足のしびれや歩行障害といった、脊髄症状を自覚した場合は、より迅速に専門的な評価が受けられる脳神経外科・内科を直接受診することも、賢明な選択と言えるでしょう。
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無料相談で「できないこと」、なぜ最終的に医師の診察が必要なのか
#7119やAI症状検索エンジンといった無料相談サービスは、何科に行けばいいか迷った時に非常に便利で心強い存在です。しかし、これらのサービスの恩恵を正しく受けるためには、その「限界」、すなわち「できないこと」を明確に理解しておく必要があります。無料相談サービスが提供するのは、あくまで「医療情報」や「受診勧奨」であり、医療行為そのものではないという大原則を忘れてはなりません。無料相談で、絶対にできないこと。それは、医師法で定められた医療行為である「診断」「治療」「処方」です。電話の向こうの看護師や、スマートフォンの画面の向こうのAIが、「あなたの病気は〇〇です」と病名を断定すること(診断)は決してありません。それは、医師が患者を直接診察しなければ行えない行為だからです。同様に、「この薬を飲んでください」と具体的な医薬品を指示すること(処方)や、治療方針を決定すること(治療)もできません。では、なぜ医師による直接の診察が不可欠なのでしょうか。その理由は、医療における診断が、患者さんの話を聞く「問診」だけでなく、「視診(目で見る)」「聴診(聴診器で聞く)」「触診(手で触れる)」といった身体診察と、血液検査や画像検査などの「客観的な検査データ」を総合して、初めて成り立つものだからです。例えば、腹痛の患者さんを診察する際、医師はお腹のどの部分を押すと痛みが強くなるか(圧痛点)を触診で確認します。これは虫垂炎や胆嚢炎の診断に極めて重要ですが、電話やチャットでは絶対に不可能です。また、心臓の雑音を聴診したり、レントゲンで肺炎の影を見つけたりすることも、直接の診察や検査なしにはできません。無料相談サービスが提供してくれる「関連性の高い病気」や「推奨される診療科」という情報は、あくまで入力された症状や話の内容から、統計的・経験的に導き出された「可能性」に過ぎないのです。その可能性を一つ一つ吟味し、本当に正しい答えを見つけ出すプロセスこそが「診断」であり、それは医師にしかできない専門的な作業です。無料相談は、病院への橋渡しをしてくれる素晴らしいツールです。しかし、そのアドバイスを元に、最終的には必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けること。このステップを省略しては、本当の安心は得られないということを、心に留めておく必要があります。
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咳と膿性痰、胸の痛みは「肺炎」のサイン、呼吸器内科へ
高熱と咳が数日間続き、次第に黄色や緑色、あるいは錆び色のような、色のついたネバネバした痰(膿性痰)が出るようになってきた。そして、深呼吸をしたり、咳き込んだりすると、胸にズキっとした痛みが走る。このような症状は、単なる気管支炎ではなく、感染が肺の奥深くにある「肺胞」という組織にまで及んでいる「肺炎」を強く疑うべきサインです。肺炎は、日本の死因の上位を占める疾患であり、特に高齢者や、心臓病、糖尿病、呼吸器疾患などの持病がある人にとっては、命に関わることもある危険な病気です。肺炎の主な原因は、「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」といった細菌による「細菌性肺炎」です。多くは、風邪やインフルエンザによって気道の防御機能が低下した際に、喉や鼻に常在していた細菌が肺に侵入することで発症します。ウイルスそのものが原因となる「ウイルス性肺炎」もありますが、細菌性肺炎はより重症化しやすい傾向にあります。肺炎の典型的な症状は、38度以上の高熱、激しい咳、膿性の痰、そして胸の痛みです。炎症が肺を包む胸膜にまで及ぶと、胸痛はさらに強くなります。また、肺での酸素交換がうまくいかなくなるため、「息切れ」や「呼吸困難」、脈が速くなる(頻脈)、血液中の酸素不足で唇や顔色が悪くなる(チアノーゼ)といった症状も見られます。肺炎が疑われる場合、受診すべき診療科は「内科」、より専門的な診断と治療を求めるなら「呼吸器内科」です。診断のためには、「胸部X線(レントゲン)撮影」が不可欠です。レントゲン写真で、肺に白い影(浸潤影)が確認されることで、肺炎の診断が確定します。また、血液検査で炎症反応(CRPや白血球数)の程度を調べたり、痰を採取して原因となっている細菌を特定する「喀痰培養検査」を行ったりすることもあります。細菌性肺炎の治療の根幹は、「抗生物質」の投与です。原因菌に有効な抗生物質を早期に開始することが、重症化を防ぐ鍵となります。軽症であれば外来での内服治療も可能ですが、呼吸状態が悪い、脱水症状がある、あるいは高齢者などの場合は、入院して抗生物質の点滴投与や、酸素吸入などの治療が必要となります。たかが咳、たかが風邪と侮らず、これらの危険なサインを見逃さないことが非常に重要です。
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まとめ。高熱と咳、病院へ行くべき危険なサインとは
大人が高熱と咳に襲われた時、多くは自宅での休養と対症療法で回復に向かいますが、中には医療機関での治療が不可欠なケースや、緊急を要する危険な病気が隠れている場合もあります。ここでは、どのような症状があれば「ただの風邪」と自己判断せず、病院を受診すべきか、その「危険なサイン(レッドフラッグサイン)」についてまとめます。これらのサインを見逃さないことが、重症化を防ぎ、早期回復に繋がる鍵となります。まず、最も重要なサインが「呼吸の状態」です。「安静にしていても息が苦しい、息切れがする」「肩で息をしている、呼吸の回数が異常に速い」「会話をするのもつらい」「横になると息苦しさが増す」といった呼吸困難の症状は、肺炎や心不全など、肺や心臓に重大な異常が起きている可能性を示唆します。次に、「胸の痛み」です。深呼吸や咳をした時に、胸にズキっとした鋭い痛みが走る場合は、肺炎が肺を包む胸膜にまで及んでいる(胸膜炎)可能性があります。また、胸の中央が締め付けられるような痛みが続く場合は、心筋炎などの心臓の合併症も考えられます。色のついた「痰」も重要な手がかりです。「黄色や緑色の膿のような痰」や、「錆び色(血が混じった)の痰」が出る場合は、細菌性肺炎の可能性が高いです。また、「意識の状態」にも注意が必要です。「高熱で意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い」「意味不明なことを言う」といった意識障害は、脳炎や脳症、あるいは敗血症といった極めて危険な状態のサインです。その他にも、「38.5度以上の高熱が3日以上続く」「水分が全く摂れず、ぐったりしている」「唇や顔色が悪く、紫色になっている(チアノーゼ)」といった症状が見られた場合は、重症化の兆候です。これらの危険なサインが一つでも当てはまれば、様子を見ずに、直ちに「内科」または「呼吸器内科」を受診してください。夜間や休日であれば、救急外来の受診もためらってはいけません。病院に行くべきか迷った場合は、#7119(救急安心センター事業)などの電話相談窓口を利用するのも良い方法です。つらい症状を我慢せず、専門家の助けを借りることが、あなた自身の健康を守る上で最も大切な行動です。