脱腸(鼠径ヘルニア)と診断されたら、次は治療について考えなければなりません。残念ながら、脱腸は薬や運動で治るものではなく、根本的に治療するためには手術が唯一の方法です。しかし、「手術」と聞くと、体に大きな負担がかかるのではないかと不安に思う方も多いでしょう。ここでは、現在の脱腸治療がどのように行われるのか、診察から手術、回復までの流れを解説します。まず、外科を受診すると、問診で症状について詳しく聞かれた後、視診と触診が行われます。立った状態で咳をしたり、お腹に力を入れたりして、ふくらみの状態を確認します。診断を確定させるため、超音波(エコー)検査を行うこともあります。これらの診察で、ヘルニアの種類や大きさを正確に把握します。治療法として手術が選択されると、具体的な手術方法の説明があります。現在、主流となっているのは「メッシュ法」と呼ばれる手術です。これは、弱くなった筋膜の部分を、ポリプロピレン製のメッシュ(網目状のシート)で補強し、腸がはみ出してくるのを防ぐ方法です。このメッシュ法には、大きく分けて二つのアプローチがあります。一つは「鼠径部切開法」で、足の付け根を数センチ切開して、直接メッシュを挿入・固定する方法です。もう一つが、近年急速に普及している「腹腔鏡手術」です。お腹に数ミリの小さな穴を3ヶ所ほど開け、そこからカメラと手術器具を挿入し、お腹の内側からメッシュで穴を塞ぐ方法です。腹腔鏡手術は、傷が小さく、術後の痛みが少ないため、より早期の社会復帰が可能というメリットがあります。手術は、日帰り、または1泊2日程度の短い入院で行われることがほとんどです。手術時間は1時間程度で、麻酔も全身麻酔や下半身麻酔など、患者さんの状態に合わせて選択されます。術後は、痛み止めで痛みをコントロールしながら、徐々に歩行を開始します。デスクワークであれば数日から1週間、力仕事でなければ2週間程度で仕事に復帰できるのが一般的です。現代の脱腸手術は、患者さんの体への負担を最小限に抑えるよう、大きく進歩しています。過度に恐れず、まずは専門医に相談してみましょう。