熱を伴わない耳下腺の腫れの原因は、これまで述べてきた感染症や唾石症、自己免疫疾患以外にも、様々なものが考えられます。中には比較的稀なものもありますが、正しい診断のためには、これらの可能性も視野に入れておく必要があります。その一つが「アレルギー反応」です。特定の食べ物や、ヨードを含む造影剤などが原因となり、アレルギーの一症状として、両側の耳下腺が急激に腫れることがあります。これは「ヨードおたふく」などとも呼ばれ、通常は痛みは少なく、数日で自然に軽快します。アレルギーを疑う場合は、「アレルギー科」や「内科」での相談が適切です。また、意外に見過ごされがちなのが「薬剤性」の耳下腺腫脹です。特定の降圧薬や精神安定薬、抗ヒスタミン薬などの副作用として、唾液の分泌が抑制され、二次的に耳下腺が腫れることがあります。もし、新しい薬を飲み始めてから腫れに気づいた場合は、その薬を処方した主治医や薬剤師に相談することが重要です。さらに、全身性の病気が耳下腺に影響を及ぼすこともあります。例えば、「糖尿病」のコントロールが悪い場合に、代謝異常の一環として両側の耳下腺が腫れること(糖尿病性耳下腺腫脹)があります。また、過食と嘔吐を繰り返す「摂食障害」でも、嘔吐による刺激や代償性の唾液腺肥大として、耳下腺が腫れることが知られています。これらの場合は、原因となっている全身疾患の治療が最優先となり、「内科」や「心療内科」が中心となって治療にあたります。「木村病(キムラ病)」という、アジア人の若年男性に多い、原因不明の良性のリンパ増殖性疾患でも、耳下腺や首のリンパ節に無痛性の腫れが見られることがあります。このように、熱のない耳下腺の腫れは、非常に多くの原因が考えられるため、自己判断は禁物です。まずは、喉や唾液腺の専門家である「耳鼻咽喉科」を受診し、超音波検査などで耳下腺の状態を詳しく評価してもらい、原因を突き止めてもらうことが、適切な治療への第一歩となります。