熱がなく、痛みもないのに、片方の耳下腺だけが、しこりのように硬く腫れている。そして、その腫れが数ヶ月経っても消えず、むしろ少しずつ大きくなっているような気がする。このような症状の場合、最も警戒しなければならないのが「耳下腺腫瘍」の可能性です。耳下腺にできる腫瘍は、その約80%が良性であり、悪性(がん)であることは比較的稀です。しかし、良性であっても放置すれば大きくなって容姿に影響したり、稀に悪性化したりする可能性もあるため、早期の正確な診断が極めて重要です。耳下腺腫瘍と、他の炎症性の腫れとを見分けるための、いくつかの特徴があります。まず、炎症性の腫れ(耳下腺炎など)が、比較的短期間で症状が変化し、痛みや熱感を伴うことが多いのに対し、腫瘍は、通常「無痛性」で、ゆっくりと進行するのが特徴です。触ってみると、炎症では全体的にブヨブヨと腫れている感じですが、腫瘍では、弾力のあるゴムのような、あるいは石のように硬い「しこり」として触れることが多いです。また、炎症は両側に起こることもありますが、腫瘍はほとんどの場合、「片側性」に発生します。そして、最も重要な危険なサインが、「顔面神経麻痺」を伴っている場合です。耳下腺の中には、顔の表情筋を動かすための重要な神経である「顔面神経」が通っています。腫瘍がこの神経に浸潤(しんじゅん)すると、腫れている側の顔が歪んだり、目が閉じにくくなったり、口角が下がったりといった麻痺の症状が現れます。痛みと共に顔面神経麻痺が出現した場合は、悪性腫瘍である可能性が非常に高くなります。耳下腺腫瘍の診断と治療は、「耳鼻咽喉科」の中でも、特に頭頸部外科を専門とする医師が担当します。診察では、まず触診でしこりの硬さや動きを確認し、超音波(エコー)検査やCT、MRIといった画像検査で、腫瘍の大きさや場所、性質を詳しく評価します。そして、診断を確定するためには、「穿刺吸引細胞診」という検査が行われます。これは、細い針をしこりに刺して、中の細胞を少量吸引し、顕微鏡で良性か悪性かを調べる検査です。耳下腺腫瘍の治療は、良性・悪性を問わず、基本的には手術による摘出となります。心配な「しこり」に気づいたら、絶対に放置せず、専門医の診察を受けてください。
最も警戒すべき「耳下腺腫瘍」の可能性と見分け方