手足口病は、ほとんどの場合、発熱と発疹だけで、数日から1週間程度で自然に治癒する、比較的予後の良い病気です。しかし、ごく稀ではありますが、重篤な合併症を引き起こし、後遺症を残したり、命に関わったりすることがあるため、その危険なサインを知っておくことは非常に重要です。特に、原因ウイルスが「エンテロウイルス71(EV71)」である場合に、重症化しやすい傾向があることが知られています。保護者の方は、単なる夏風邪と侮らず、病気の経過中、子どもの様子を注意深く観察してください。最も注意すべき合併症は、ウイルスが中枢神経系に感染することで起こる「急性脳炎」や「無菌性髄膜炎」です。これらの病気を疑うべき危険なサインは、「ぐったりしていて、呼びかけへの反応が悪い」「意識がもうろうとしている、視線が合わない」「頭をひどく痛がる(特に年長児の場合)」「嘔吐を何度も繰り返す」「原因不明のけいれんを起こす」といった症状です。発熱に伴う「熱性けいれん」は手足口病でも見られることがありますが、けいれんが5分以上続く、短い間隔で繰り返す、けいれん後の意識の回復が悪いといった場合は、より重篤な脳炎の可能性を考える必要があります。また、ウイルスが心臓の筋肉に感染する「心筋炎」や、肺に水がたまる「肺水腫」も、稀ですが致死的な合併症です。「顔色が悪く、唇が紫色になっている」「呼吸が速く、苦しそう」「脈が異常に速い、または弱い」といった症状が見られた場合は、循環器系や呼吸器系に異常が起きているサインかもしれません。これらの重篤な合併症は、病気の初期段階、特に高熱が出ている時期に起こりやすいとされています。したがって、「高熱が2日以上続く」「嘔吐を繰り返し、水分が全く摂れず、ぐったりしている」といった状態が見られたら、たとえ夜間や休日であっても、様子を見ずに直ちに医療機関(救急外来)を受診してください。ほとんどは軽症で済む手足口病ですが、「いつもと様子が違う」と保護者が感じた直感は、非常に重要です。子どもの重症化のサインを見逃さないために、少しでも不安な点があれば、ためらわずに医師の診察を受けるようにしましょう。