脱腸(ヘルニア)は、一般的に中高年の男性に多い病気というイメージがありますが、実は女性や子供にも決して珍しくない病気です。そして、その原因や種類、注意点には、成人男性とは異なる特徴があります。まず、女性の脱腸についてです。女性の場合、足の付け根に起こるヘルニアには、男性と同じ「鼠径ヘルニア」のほかに、「大腿(だいたい)ヘルニア」という種類があります。大腿ヘルニアは、鼠径部の少し下、太ももの付け根に近い部分から腸がはみ出すもので、女性に多く見られます。鼠径ヘルニアに比べてヘルニアの出口が小さく硬いため、腸がはまり込んでしまう「嵌頓」を起こしやすいという、非常に危険な特徴を持っています。また、女性は妊娠・出産によって腹圧が上昇し、腹壁の組織が弱くなるため、それがきっかけで鼠径ヘルニアを発症することもあります。気になるふくらみがあれば、まずは外科や消化器外科を受診するのが基本ですが、産後の場合は婦人科のかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。次に、子供の脱腸です。これは「小児鼠径ヘルニア」と呼ばれ、そのほとんどが生まれつきの原因によるものです。胎児期に、お腹の中から精巣や子宮を支える靭帯が降りてくる際の通り道が、生後も閉じずに残ってしまうことで、その隙間から腸が飛び出してしまいます。そのため、生後間もない赤ちゃんでも発症することがあります。子供の場合は、泣いたり、いきんだりした時にお腹に力がかかると、足の付け根がぷくっと膨らみ、機嫌が良くなると自然に引っ込む、という症状が典型的です。子供の脱腸も、自然に治ることは期待できず、治療には手術が必要です。また、大人と同様に嵌頓のリスクがあるため、早期の治療が望まれます。子供の脱腸を専門に診るのは「小児外科」です。かかりつけの小児科で相談すれば、適切な専門医を紹介してもらえます。このように、脱腸は性別や年齢を問わず起こりうる病気です。それぞれの特徴を理解し、気になる症状があれば、適切な診療科を早めに受診することが大切です。