「脂質異常症は、生活習慣病なのだから、食事に気をつけて、運動をすれば、自分で治せるはずだ」「薬は一度飲み始めると、やめられないと聞くし、まずは自力で頑張ってから、それでもダメなら病院に行こう」。そう考えて、自己流の生活習慣改善に取り組んでいる方は、少なくないかもしれません。確かに、脂質異常症の治療の基本が、食事療法と運動療法であることは事実です。軽度の異常であれば、これらの生活習慣の改善だけで、血液検査の数値が基準値内に戻ることも、十分にあり得ます。しかし、「だから、病院へ行く必要はない」と考えるのは、非常に危険な、そして一方的な判断です。なぜなら、その自己流の改善が、本当にあなたの体のリスクを十分に下げているのかを、客観的に評価する術を、あなたは持っていないからです。例えば、あなたが食事の脂質を減らし、毎日ウォーキングを始めたとします。その努力は素晴らしいものですが、その結果、LDLコレステロール値が、どのくらい下がったのか。動脈硬化の進行は、本当に止まっているのか。それを知るためには、定期的な血液検査や、頸動脈エコーといった、医療機関でしか行えない、科学的な評価が不可欠です。また、脂質異常症の中には、遺伝的な要因が強く関わっている「家族性高コレステロール血症」のように、どんなに厳しい食事制限や運動を行っても、それだけではコレステロール値が下がらない、特殊なタイプも存在します。この場合は、早期からの薬物療法が、将来の心筋梗塞などを防ぐために、極めて重要となります。これを、自己判断で見極めることは不可能です。病院へ行くことの本当の意味は、単に薬をもらうことだけではありません。それは、医師や管理栄養士といった専門家のサポートを受けながら、自分の生活習慣の改善が、正しい方向に向かっているのかを、客観的なデータに基づいて確認し、軌道修正していくための、いわば「健康のパーソナルトレーニング」を受けることなのです。自己流の努力を、無駄にしないためにも、そして、手遅れにならないためにも、まずは一度、専門家の診断と指導を仰ぐ。それこそが、本当の意味での、賢明な自己管理と言えるでしょう。