「若い頃の健康診断では、コレステロール値なんて、全く気にしたこともなかったのに」。そう話す、中高年の女性は少なくありません。それもそのはず、実は、女性の体は、閉経を迎える前の時期まで、脂質異常症、特に高LDL(悪玉)コレステロール血症から、天然の強力な守護神によって守られているのです。その守護神の名は、女性ホルモン「エストロゲン」です。エストロゲンには、血管をしなやかに保ち、内臓脂肪の蓄積を抑えるといった、様々な健康効果がありますが、その中でも特に重要なのが、肝臓におけるLDLコレステロールの分解を促進し、HDL(善玉)コレステロールを増やすという、血液中の脂質バランスを良好に保つ働きです。このエストロゲンの強力な作用のおかげで、閉経前の女性は、同じ年代の男性に比べて、脂質異常症になりにくく、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクも、低く抑えられています。しかし、この守護神の加護は、永遠ではありません。四十代後半から五十代にかけて、多くの女性が迎える「更年期」。この時期になると、卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量が、まるでジェットコースターのように、急激に減少していきます。そして、これまでコレステロール値をコントロールしてくれていた、強力なブレーキが失われることで、血液中のLDLコレステロール値は、面白いように上昇を始めます。それまで健康診断で異常を指摘されたことがなかった人でも、閉経を境に、突然、脂質異常症と診断されるケースは、非常に多いのです。そして、この時期を境に、女性の動脈硬化のリスクは、男性に追いつき、追い越していきます。「若い頃は大丈夫だったから」「私はコレステロールとは無縁だわ」という、過去の栄光は、更年期以降の女性には、もはや通用しません。むしろ、その急激な変化ゆえに、男性以上に、意識的な管理が必要となるのです。更年期は、女性の体にとって、大きな転換期です。これまで以上に、定期的な健康診断を欠かさず、もし数値に異常が見られた場合は、年齢的な変化と諦めずに、速やかに医療機関を受診し、新たなステージに向けた、健康管理をスタートさせることが、何よりも重要となるのです。