脱腸(鼠径ヘルニア)は、手術をすれば根本的に治る病気ですが、残念ながら稀に再発することがあります。また、片側が治っても、逆側が新たに発症する可能性もあります。手術後の良好な状態を維持し、再発のリスクを少しでも減らすためには、日常生活の中で「お腹に過度な圧力をかけない」ことを意識するのが重要です。これは、脱腸の予防策としても非常に有効です。まず、最も気をつけたいのが「便秘」です。排便時に強くいきむことは、腹圧を著しく上昇させ、ヘルニアの再発や発症の大きな引き金となります。便秘を防ぐためには、日頃から食物繊維が豊富な野菜や果物、海藻類を積極的に摂り、腸内環境を整えることが大切です。また、1日に1.5リットルから2リットルを目安に、こまめな水分補給を心がけ、便を柔らかく保ちましょう。朝食を抜かないなど、規則正しい食生活を送ることも、自然な便意を促すために役立ちます。次に、日常生活の動作にも注意が必要です。重いものを持ち上げる際は、膝を曲げて腰を落とし、品物を体に近づけてから、腹筋ではなく足の力を使って持ち上げるようにしましょう。息を止めて「うんっ」と力を入れると腹圧が急上昇するため、息を吐きながら持ち上げるのがコツです。また、肥満、特に内臓脂肪が多いと、常にお腹の中から外側への圧力がかかり、腹壁に負担をかけます。適度な運動とバランスの取れた食事で、適正体重を維持することは、脱腸予防の観点からも非常に重要です。ウォーキングなどの有酸素運動は、肥満解消だけでなく、便秘改善にも効果が期待できます。さらに、長引く激しい咳や、頻繁なくしゃみも、腹圧を上げる原因となります。風邪やアレルギー性鼻炎などがある場合は、早めに治療して、咳やくしゃみが続かないようにコントロールすることも大切です。これらの生活習慣の見直しは、すぐに効果が出るものではありませんが、地道に続けることが、脱腸の再発・発症のリスクを遠ざけ、健康な体を維持するための確実な一歩となるのです。