夏になると、子どもたちの間で決まって流行し、多くの保護者を悩ませる感染症、いわゆる「夏風邪」。その代表格であり、特に強烈な症状で知られるのが「ヘルパンギーナ」です。この病気は、主にエンテロウイルス属に分類されるウイルス群、その中でも特に「コクサッキーウイルスA群」の複数の型が原因となって引き起こされます。感染力が非常に強く、ウイルスが付着したおもちゃの共有や、くしゃみの飛沫などを介して、保育園や幼稚園、小学校といった集団生活の場で急速に感染が拡大します。例年、湿度と気温が上がる5月頃から患者数が増え始め、7月から8月の真夏に流行のピークを迎えます。患者の90%以上が5歳以下の乳幼児であり、特に1歳代での発症が最も多いとされています。多くの子どもにとって「初めての高熱」となることも少なくありません。ヘルパンギーナの最も特徴的な症状は、何の前触れもなく突然現れる38度から40度の高熱と、それに伴う強烈な「喉の痛み」です。この喉の痛みは、ウイルスが喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や上顎の柔らかい部分(軟口蓋)に、多数の小さな水ぶくれ(小水疱)と、それが破れた後の潰瘍(口内炎)を形成することによって引き起こされます。この痛みのために、子どもは食事や水分を摂ることを嫌がり、機嫌が非常に悪くなるだけでなく、脱水症状に陥る危険性もあります。ヘルパンギーナの原因はウイルスであるため、インフルエンザのような特効薬(抗ウイルス薬)は存在しません。そのため、治療は基本的に、高熱や喉の痛みといったつらい症状を和らげるための「対症療法」が中心となります。通常は、発症から1週間程度で自然に回復に向かう予後良好な疾患ですが、その間の症状は非常に強く、看病する家族にとっては心身ともに負担の大きい病気と言えるでしょう。