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原因③夏に急増!食中毒による「感染性胃腸炎」
夏の腹痛や下痢の原因として、最も警戒しなければならないのが「感染性胃腸炎」、すなわち「食中毒」です。夏は、食中毒の原因となる細菌が増殖するための「温度」と「湿度」という、二つの最適な条件が揃う季節です。多くの食中毒菌は、20度くらいから活発に増殖を始め、人間の体温に近い35~40度で最も増殖スピードが速くなります。そのため、調理した食品を室温で放置したり、不適切な温度管理で持ち運んだりすると、わずかな時間で細菌が爆発的に増え、食中毒のリスクが飛躍的に高まるのです。夏に特に注意が必要な細菌には、いくつかの種類があります。まず、「カンピロバクター」は、鶏肉(特に生の鶏肉や加熱不十分な鶏肉)を主な原因とする食中毒で、比較的少ない菌数でも発症します。潜伏期間が2~7日とやや長いのが特徴で、下痢、腹痛、発熱に加え、血便が見られることもあります。次に、「サルモネラ菌」は、卵やその加工品、食肉などが原因となりやすい細菌です。こちらも下痢、腹痛、発熱が主な症状です。「腸炎ビブリオ」は、生の魚介類に付着していることが多く、刺身や寿司などが原因となりやすい、夏場の代表的な食中毒菌です。そして、最も警戒すべきものの一つが「腸管出血性大腸菌(O-157など)」です。牛のレバーや加熱不十分なひき肉料理などが原因となり、激しい腹痛と、水様性の下痢から、やがて血液が混じった血便へと変化するのが特徴です。ベロ毒素という強力な毒素を産生し、重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症といった、命に関わる合併症を引き起こすことがあります。これらの食中毒を防ぐためには、予防の三原則である「つけない・増やさない・やっつける」を徹底することが不可欠です。調理前や食事前の丁寧な手洗い(つけない)、食品の適切な温度管理(冷蔵・冷凍)と早めの消費(増やさない)、そして食品の中心部まで十分に加熱すること(やっつける)が基本となります。特に、バーベキューなどのアウトドアでの食事では、生の肉を扱うトングや箸と、食べるための箸を必ず使い分ける、肉は中心部までしっかり焼く、といった注意が必要です。もし、下痢に加えて高熱や激しい腹痛、血便などの症状が見られた場合は、単なるお腹の風邪だと自己判断せず、直ちに内科や消化器内科を受診してください。
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原因④意外な落とし穴「寝冷え」による腹部の冷え
熱帯夜が続き、寝苦しさから解放されたい一心で、エアコンや扇風機をつけたまま眠りについてしまう。これは、多くの人が夏に行う習慣ですが、実はこれが翌朝のつらい下痢の引き金となる「寝冷え」の原因となっています。私たちの体は、睡眠中、特に深い眠りに入ると、日中の活動期に比べて体温が少し下がります。また、体温を調節するために、知らず知らずのうちに大量の汗をかいています。汗が蒸発する際には、気化熱によって体の表面から熱が奪われ、さらに体温が下がりやすくなります。このような無防備な状態で、一晩中、冷たい風にさらされ続けると、体、特に衣服で覆われていない、あるいは薄着になりがちなお腹周りが、必要以上に冷やされてしまうのです。お腹が冷えると、胃腸の働きに直接的な影響が及びます。まず、腸壁の血管が収縮し、血行が悪くなることで、消化機能が低下します。さらに、冷えという刺激が自律神経に作用し、腸の蠕動運動をコントロールするバランスを乱します。特に、腸が冷やされると、それを異常事態と捉え、腸の動きが過剰に活発になることがあります。腸が活発に動きすぎると、食べ物が腸内を通過するスピードが速くなりすぎて、便から水分が十分に吸収される前に、肛門まで到達してしまいます。その結果、便が水っぽい、いわゆる下痢の状態となって排出されるのです。朝起きてすぐにお腹がゴロゴロ鳴ったり、トイレに駆け込んだりするような下痢は、この寝冷えが原因である可能性が高いと考えられます。寝冷えによる下痢を防ぐためには、睡眠環境の工夫が不可欠です。まず、エアコンを使用する場合は、必ず「タイマー機能」を活用しましょう。就寝後1~3時間で切れるように設定するのがお勧めです。タイマーが切れた後も快適に眠れるよう、寝室の壁や天井に向けて間接的に風を送るなど、風が体に直接当たらないように工夫します。扇風機の場合も同様で、首振り機能を利用し、微風に設定するのが基本です。服装も重要です。夏用の薄手の長袖・長ズボンのパジャマを着用し、特にお腹周りを冷やさないようにしましょう。それでも冷えが心配な方は、「腹巻」や「夏用の薄いタオルケット」などを活用し、お腹を重点的に保温するのが非常に効果的です。快適な睡眠と、健やかなお腹を両立させるために、夏の夜の「冷え対策」をぜひ実践してみてください。
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大人の百日咳、長く続く発作的な咳に要注意
「百日咳」と聞くと、多くの人は「子どもの病気」というイメージを持つかもしれません。しかし、近年、ワクチン接種から時間が経って免疫が低下した大人の間で、百日咳の患者が増加しており、問題となっています。大人の百日咳は、典型的な症状が出にくく、診断が遅れがちになるため、長引く咳の原因として常に念頭に置くべき疾患の一つです。百日咳は、百日咳菌という細菌に感染することで発症します。感染初期(カタル期)は、鼻水や軽い咳といった、普通の風邪と全く見分けがつかない症状が1~2週間続きます。しかし、その後、「痙咳期(けいがいき)」と呼ばれる特徴的な咳の時期へと移行します。この時期の咳は、短い咳が息継ぎなしに連続してコンコンコンと続き(スタッカート)、最後に息を吸い込む際に、ヒューっと笛のような音(レプリーゼ)が鳴る、発作性の激しい咳き込みです。この咳発作は夜間に起こりやすく、あまりの激しさに顔を真っ赤にして、嘔吐したり、息ができなくなったりすることもあります。このつらい咳発作が、数週間にわたって続くのです。しかし、大人の場合は、このような典型的なレプリーゼを伴う咳発作が見られないことも多く、単に「風邪をひいた後、激しい咳だけが2週間以上も長引いている」という形で現れることが少なくありません。熱は、出ないか、出ても微熱程度のことが多いです。大人が百日咳に感染した場合、本人にとってはつらい咳で済みますが、免疫を持たない乳幼児にうつしてしまうと、無呼吸発作や肺炎、脳症といった重篤な合併症を引き起こす危険性があり、感染源とならないためにも正確な診断と治療が重要です。長引く咳で百日咳が疑われる場合、受診すべきは「呼吸器内科」または「内科」です。診断は、鼻の奥の粘液を用いたPCR検査や、血液検査で百日咳菌に対する抗体の量を測定することで行われます。治療には、マクロライド系の抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)が有効です。特に、感染初期に服用することで、症状の重症化を防ぎ、菌の排出を抑えて、他者への感染を防ぐ効果が期待できます。2週間以上続く原因不明の咳がある場合は、百日咳の可能性も考え、医療機関を受診しましょう。
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整形外科を受診すべき首の痛み、寝違えからヘルニアまで
首の痛みを訴える患者さんの大多数が、まず訪れるべき診療科、それが「整形外科」です。整形外科は、骨、関節、筋肉、神経といった運動器系の病気や怪我を専門とし、首の痛みの原因として最も頻度の高い疾患群を扱っています。では、どのような首の痛みであれば、整形外科の受診が最も適しているのでしょうか。まず、痛みの原因やきっかけがはっきりしている場合です。例えば、「朝起きたら首が回らなくなっていた(寝違え)」「重い荷物を持ってから痛くなった」「スポーツで首を捻った」「交通事故でむちうちになった」など、特定の動作や外傷が原因で痛みが生じた場合は、首の筋肉や靭帯の損傷(頸部捻挫)、あるいは筋肉の過度な緊張が考えられます。また、痛みが首の動きと連動している場合も、整形外科の領域です。「上を向くと痛い」「下を向くと首から背中にかけて張る」「特定の方向に首を回すと激痛が走る」といったように、動作によって痛みが誘発されたり、逆に楽な姿勢があったりするのは、頸椎やその周辺組織に問題があるサインです。さらに、首の痛みだけでなく、肩や腕、指先にまで広がる「痛み」や「しびれ」を伴う場合は、頸椎の病気を強く疑う必要があります。代表的なのが「頸椎椎間板ヘルニア」と「頸椎症性神経根症」です。これらは、首の骨(頸椎)の間にあるクッションの役割を果たす椎間板が飛び出したり、加齢によって骨が変形してトゲ(骨棘)ができたりすることで、腕へ向かう神経の根元(神経根)が圧迫されて発症します。この場合、首の痛みそのものよりも、腕や手の放散痛やしびれの方が強く感じられることも少なくありません。整形外科では、まず問診と診察で痛みの場所や程度、神経症状の有無を確認します。そして、「レントゲン撮影」を行い、頸椎の骨の並びや変形の有無を評価します。神経の圧迫が疑われる場合には、さらに「MRI検査」で、椎間板や脊髄、神経の状態を詳細に観察し、診断を確定させます。治療は、まず消炎鎮痛薬や筋弛緩薬の内服、湿布などの薬物療法、そして首の安静を保つための頸椎カラーの装着、温熱療法や牽引療法といった物理療法(リハビリテーション)などの保存的治療が中心となります。これらの治療により、ほとんどの症状は改善に向かいます。
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アレルギーや薬剤性、その他の稀な原因
熱を伴わない耳下腺の腫れの原因は、これまで述べてきた感染症や唾石症、自己免疫疾患以外にも、様々なものが考えられます。中には比較的稀なものもありますが、正しい診断のためには、これらの可能性も視野に入れておく必要があります。その一つが「アレルギー反応」です。特定の食べ物や、ヨードを含む造影剤などが原因となり、アレルギーの一症状として、両側の耳下腺が急激に腫れることがあります。これは「ヨードおたふく」などとも呼ばれ、通常は痛みは少なく、数日で自然に軽快します。アレルギーを疑う場合は、「アレルギー科」や「内科」での相談が適切です。また、意外に見過ごされがちなのが「薬剤性」の耳下腺腫脹です。特定の降圧薬や精神安定薬、抗ヒスタミン薬などの副作用として、唾液の分泌が抑制され、二次的に耳下腺が腫れることがあります。もし、新しい薬を飲み始めてから腫れに気づいた場合は、その薬を処方した主治医や薬剤師に相談することが重要です。さらに、全身性の病気が耳下腺に影響を及ぼすこともあります。例えば、「糖尿病」のコントロールが悪い場合に、代謝異常の一環として両側の耳下腺が腫れること(糖尿病性耳下腺腫脹)があります。また、過食と嘔吐を繰り返す「摂食障害」でも、嘔吐による刺激や代償性の唾液腺肥大として、耳下腺が腫れることが知られています。これらの場合は、原因となっている全身疾患の治療が最優先となり、「内科」や「心療内科」が中心となって治療にあたります。「木村病(キムラ病)」という、アジア人の若年男性に多い、原因不明の良性のリンパ増殖性疾患でも、耳下腺や首のリンパ節に無痛性の腫れが見られることがあります。このように、熱のない耳下腺の腫れは、非常に多くの原因が考えられるため、自己判断は禁物です。まずは、喉や唾液腺の専門家である「耳鼻咽喉科」を受診し、超音波検査などで耳下腺の状態を詳しく評価してもらい、原因を突き止めてもらうことが、適切な治療への第一歩となります。
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新型コロナウイルス感染症
2020年以降、大人が高熱と咳を発症した場合、誰もが「もしかして新型コロナウイルス?」と考えるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、季節性インフルエンザと症状が非常に似ており、初期段階での鑑別は極めて困難です。そのため、適切な検査による診断が不可欠となります。新型コロナの主な症状も、発熱(高熱から微熱まで様々)、乾いた咳、強い倦怠感、喉の痛み、頭痛、筋肉痛などであり、インフルエンザと大きく重なります。しかし、初期のオミクロン株などでは、「喉にガラスが刺さったような」と表現されるほどの激しい喉の痛みが特徴的であったり、あるいは「味覚障害」や「嗅覚障害」といった、インフルエンザではあまり見られない症状が現れたりすることもありました。ただし、ウイルスの変異に伴い、症状の傾向も変化していくため、特定の症状だけで自己判断するのは危険です。高熱と咳があり、新型コロナウイルス感染症が疑われる場合は、いきなり医療機関を受診するのではなく、まずはかかりつけ医や、地域の「発熱外来」、あるいは自治体が設置する相談窓口に電話で連絡し、指示を仰ぐのが基本的な流れとなります。医療機関では、インフルエンザと同様に、鼻の奥から検体を採取する「抗原検査」や、より精度の高い「PCR検査」によって診断を確定します。治療は、軽症の場合は、解熱鎮痛薬や咳止めといった対症療法を行いながら、自宅での療養が基本となります。しかし、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人、あるいは症状が重い場合には、ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」(パキロビッド、ラゲブリオ、ゾコーバなど)の投与が検討されます。COVID-19で最も警戒すべきは、ウイルス性肺炎による呼吸状態の悪化です。咳がひどくなり、「息苦しさ(呼吸困難)」「胸の痛み」「顔色が悪い(チアノーゼ)」といった症状が現れた場合は、重症化のサインです。このような場合は、直ちに医療機関に連絡し、入院治療が必要となる可能性があります。感染対策としては、インフルエンザと同様に、マスクの着用、手洗い、換気が基本となります。また、重症化予防には、ワクチン接種が有効とされています。
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原因②冷房が引き起こす「自律神経の乱れ」と下痢
夏の快適な生活に欠かせない冷房(エアコン)。しかし、この文明の利器が、実は夏の体調不良、特に下痢の大きな原因となっていることがあります。屋外の35度を超える猛暑の世界から、25度前後の冷房が効いた室内へ。この10度以上にもなる急激な温度差に、私たちの体は悲鳴を上げています。この温度変化のストレスに最も影響を受けるのが、体温調節や内臓の働きをコントロールしている「自律神経」です。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取り合うことで、私たちの体は健康を維持しています。暑い屋外では、体は汗をかいて熱を逃がすために副交感神経が優位になります。しかし、冷えた室内に入ると、今度は体温を逃さないように血管を収縮させるため、交感神経が急激に活発になります。このように、一日のうちに何度も激しい温度差に晒されることで、自律神経のスイッチングが過剰になり、やがてそのバランスが崩壊してしまうのです。これが、いわゆる「冷房病(クーラー病)」や「自律神経失調症」と呼ばれる状態です。そして、自律神経の乱れは、胃腸の働きに直接的な影響を及ぼします。胃腸の蠕動運動は、主にリラックスしている時に働く副交感神経によってコントロールされています。しかし、自律神経のバランスが崩れると、このコントロールが効かなくなり、腸の動きが異常に活発になったり、逆に鈍くなったりします。特に、ストレスなどで交感神経が過剰に優位になると、腸の動きが過敏になり、痙攣(けいれん)性の収縮を起こしやすくなります。その結果、便が正常に腸内を進むことができず、水分が十分に吸収されないまま排出されることで、下痢を引き起こしてしまうのです。また、体の冷えそのものが、血行不良を招き、消化機能を低下させることも、下痢を助長する要因となります。対策としては、まず室内外の温度差を5度以内にとどめるのが理想です。職場の冷房が強すぎる場合は、カーディガンやひざ掛け、ストールなどを常備し、首、手首、足首といった「三首」を冷やさないように工夫しましょう。食事では、ショウガやネギ、唐辛子といった体を温める食材を意識的に摂ることも有効です。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かる入浴は、乱れた自律神経のバランスを整えるのに非常に効果的です。
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しつこい咳と発熱「急性気管支炎」との違い
高熱と咳という症状は、気管支に炎症が起こる「急性気管支炎」でも見られます。肺炎との違いは、炎症の主座がどこにあるかです。気管支炎は、喉と肺をつなぐ空気の通り道である「気管支」の粘膜が炎症を起こす病気であり、肺炎のように肺胞でのガス交換に直接的な障害が起こるわけではありません。しかし、症状が似ているため、鑑別が重要になります。急性気管支炎の最も一般的な原因は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスといった「ウイルス感染」です。風邪(急性上気道炎)に続いて発症することが多く、最初は乾いたコンコンとした咳から始まり、次第に痰が絡むゴホゴホとした湿った咳に変化していくのが典型的な経過です。発熱は、高熱が出ることもあれば、微熱程度で済むこともあり、様々です。全身の倦怠感や頭痛を伴うこともあります。気管支炎と肺炎を見分けるための重要なポイントは、「胸の痛み」と「呼吸困難」の有無です。気管支炎では、激しい咳によって胸の筋肉が痛むことはあっても、肺炎に特徴的な、深呼吸で響くような胸痛(胸膜痛)は通常ありません。また、安静にしていても息が苦しい、というような呼吸困難も、気管支炎では稀です(喘息を合併している場合を除く)。受診すべき診療科は「内科」または「呼吸器内科」です。医師は、まず聴診器で胸の音を聞き、肺炎を示唆する異常な音(ラ音など)がないかを確認します。そして、肺炎との鑑別が難しいと判断した場合には、胸部X線(レントゲン)撮影を行います。レントゲンで肺に異常な影がなければ、気管支炎と診断されます。急性気管支炎の多くはウイルス性が原因であるため、抗生物質は効果がありません。治療は、つらい症状を和らげる「対症療法」が中心となります。咳を鎮めるための鎮咳薬、痰の切れを良くするための去痰薬、熱や痛みに対する解熱鎮痛薬などが処方されます。何よりも大切なのは、十分な休養と、喉を乾燥させないためのこまめな水分補給です。通常、発熱は数日で治まり、咳も1~3週間程度で改善に向かいますが、咳だけが長引く場合は、他の病気(咳喘息や百日咳など)の可能性も考える必要があります。
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首の痛みに悩んだら、まず何科?原因を見極めるための診療科選び
長時間のデスクワークやスマートフォンの操作、あるいは朝起きた時の寝違えなど、多くの人が日常的に経験する「首の痛み」。このありふれた症状の裏には、単純な筋肉の疲労から、骨や神経の深刻な病気、さらには内臓のトラブルまで、実に多岐にわたる原因が隠されています。そのため、適切な治療を受けるためには、自分の首の痛みの原因が何であるかを推測し、正しい診療科を選ぶことが何よりも重要になります。結論から言うと、首の痛みの診断と治療において、中心的な役割を担う診療科は「整形外科」です。整形外科は、首の骨(頸椎)や、その間にある椎間板、そして首周りの筋肉や靭帯といった「運動器」の専門家であり、首の痛みの原因の多くがここに集約されます。寝違えや、加齢による頸椎の変形、頸椎椎間板ヘルニアなどがその代表です。しかし、症状によっては、他の診療科の受診が必要となるケースもあります。例えば、手足のしびれや歩行障害といった神経症状が強い場合は、「脳神経外科」や「脳神経内科」が関わってきます。また、発熱やリンパ節の腫れを伴う場合は、感染症などを考え「内科」や「耳鼻咽喉科」が、強いストレスが関与している場合は「心療内科」が選択肢となることもあります。さらに、稀ではありますが、心臓の病気(狭心症など)の痛みが首に放散することもあるため、その場合は「循環器内科」での精査が必要です。このように、首の痛みは体からの重要なサインであり、どの診療科を受診すべきかを見極めるためには、痛みの性質や始まったきっかけ、そして他にどのような症状があるかを注意深く観察することが非常に重要になります。この記事シリーズでは、症状別に考えられる原因と、それぞれに対応する専門診療科について詳しく解説していきます。
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原因①冷たいものの摂りすぎが招く「消化機能の低下」
厳しい暑さが続く夏、火照った体を冷やそうと、氷の入った冷たい飲み物を一気に飲み干したり、アイスクリームやかき氷に手が伸びたりするのは、ごく自然なことです。しかし、この「体を冷やす」という行為が、胃腸にとっては大きな負担となり、下痢の直接的な原因となっていることが少なくありません。私たちの体、特に内臓が正常に機能するためには、37度前後の適切な温度が保たれている必要があります。ここに、急激に冷たい飲食物が大量に流れ込んでくると、胃腸は文字通り「冷やされ」てしまいます。胃腸が冷えると、まず胃壁や腸壁を通る毛細血管が収縮し、血流が悪化します。血流が悪くなると、消化活動に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなり、胃腸全体の動き、すなわち蠕動(ぜんどう)運動が鈍くなってしまうのです。さらに、食べ物を分解するために不可欠な「消化酵素」は、一定の温度で最も活発に働きます。体温が低下すると、これらの消化酵素の働きも著しく低下してしまいます。その結果、食べたものが十分に消化されないまま、腸へと送られてしまいます。未消化の食物は、腸にとっては「異物」であり、腸壁を刺激します。また、腸内の悪玉菌のエサとなり、異常発酵を起こしてガスを発生させることもあります。すると、体はこれらの消化不良物を一刻も早く体外へ排出しようと、腸の蠕動運動を過剰に活発化させ、さらに腸管内へ水分を大量に分泌します。この結果、便の水分量が多くなり、固まる前のドロドロ、あるいは水のような状態で排出される「下痢」が引き起こされるのです。これが、冷たいものを摂りすぎた時に起こる下痢のメカニズムです。対策は非常にシンプルです。まず、飲み物はキンキンに冷えたものではなく、できるだけ常温に近いものを選ぶように心がけましょう。どうしても冷たいものが飲みたい場合は、一気にがぶ飲みするのではなく、口の中で少し温めるように、ゆっくりと時間をかけて飲むことが大切です。また、食事の際は、冷たいものばかりでなく、温かいスープや味噌汁などを一品加えることで、胃腸の冷えを和らげることができます。夏の胃腸を守るためには、「急激に冷やしすぎない」という意識が何よりも重要です。