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脂質異常症の病院選びまず何科を受診する?
健康診断で脂質異常症を指摘され、病院へ行くことを決意した。しかし、次に多くの人が直面するのが「一体、何科の病院に行けば良いのだろう?」という、意外と難しい問題です。内科なのか、循環器科なのか、あるいは専門外来が良いのか。その問いに対する最もシンプルで、そして最も正しい答えは、「まずは、お近くの内科、あるいは循環器内科を受診する」ということです。特に、普段から風邪などで通っている「かかりつけの内科医」がいる場合は、そこが最適な最初の相談窓口となります。内科は、体の不調を総合的に診断・治療する専門家です。脂質異常症の診断に不可欠な血液検査の再検査はもちろんのこと、脂質異常症と密接に関連する、他の生活習慣病、例えば「高血圧」や「糖尿病」の有無についても、同時にチェックしてくれます。これらの病気は、それぞれが動脈硬化を進行させる危険因子であり、複数が重なることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは飛躍的に高まります。内科医は、あなたの血液データだけでなく、血圧や血糖値、肥満度、喫煙歴、家族歴といった、様々な情報を総合的に評価し、あなたの将来的なリスクがどの程度なのかを、専門的な視点から判断してくれます。もし、より専門的な検査や治療が必要と判断された場合は、そこから循環器内科(心臓や血管の専門科)や、内分泌・代謝内科(ホルモンや代謝の専門科)といった、適切な専門科へと紹介してもらうことができます。最近では、「脂質異常症外来」や「生活習慣病外来」といった、専門外来を設けている病院やクリニックもあります。もし、お近くにそのような専門外来があれば、そこを受診するのも非常に良い選択です。何科に行くべきか迷ったら、まずは体の状態を総合的に診てくれる内科を受診し、そこを起点として、専門的な診断と治療への道筋をつけてもらう。それが、原因不明の不調から抜け出すための、最も確実で安心なルートなのです。
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脂質異常症の病院では何をする?検査と治療法
「脂質異常症で病院に行く」と決めたものの、そこで一体どのような検査が行われ、どんな治療が始まるのか、具体的な流れがわからずに、不安を感じている方もいるかもしれません。ここでは、病院で行われる基本的な検査と治療の流れについて解説します。まず、診察室で最初に行われるのが、丁寧な「問診」です。医師は、あなたの健康診断の結果票を確認しながら、普段の食生活(肉や揚げ物は好きか、野菜は摂れているかなど)、運動習慣、喫煙や飲酒の習慣、そして家族(特に親や兄弟)に心筋梗塞や脳梗塞になった人がいないか(家族歴)といった、生活習慣や遺伝的なリスクについて、詳しく質問します。これらの情報は、治療方針を決める上で非常に重要です。次に行われるのが、身長、体重、腹囲の測定と、血圧の測定といった「身体診察」です。そして、診断の確定と、治療効果の判定のために、再度「血液検査」と「尿検査」が行われます。この血液検査で、脂質異常症の診断基準となる数値を、より正確に再評価します。これらの基本的な検査に加えて、動脈硬化がどの程度進行しているかを調べるための、追加の検査が行われることもあります。その代表的なものが「頸動脈エコー(超音波)検査」です。首の動脈(頸動脈)に超音波を当てるだけの、痛みも被曝もない簡単な検査で、血管の壁の厚さや、プラーク(脂質の塊)の有無を直接観察することができます。これにより、あなたの血管の「実年齢」を知ることができるのです。これらの検査結果を総合的に判断し、医師は治療方針を決定します。脂質異常症の治療の基本、そして第一歩は、薬ではありません。必ず「生活習慣の改善」、すなわち「食事療法」と「運動療法」から始まります。医師や管理栄養士から、具体的な食事の改善点(脂質の多い食品を控える、食物繊維を多く摂るなど)や、ウォーキングなどの有酸素運動の推奨といった、専門的な指導を受けます。そして、この生活習慣の改善を数ヶ月続けても、数値が十分に改善しない場合や、あるいは最初の診断の時点で、心筋梗塞などのリスクが非常に高いと判断された場合に、初めて「薬物療法」が検討されます。治療の主役は、あくまであなた自身の生活習慣の改善です。医師はそのサポーターとして、あなたの健康づくりを伴走してくれるのです。
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ヘルパンギーナとはどんな病気?
夏になると、子どもたちの間で決まって流行し、多くの保護者を悩ませる感染症、いわゆる「夏風邪」。その代表格であり、特に強烈な症状で知られるのが「ヘルパンギーナ」です。この病気は、主にエンテロウイルス属に分類されるウイルス群、その中でも特に「コクサッキーウイルスA群」の複数の型が原因となって引き起こされます。感染力が非常に強く、ウイルスが付着したおもちゃの共有や、くしゃみの飛沫などを介して、保育園や幼稚園、小学校といった集団生活の場で急速に感染が拡大します。例年、湿度と気温が上がる5月頃から患者数が増え始め、7月から8月の真夏に流行のピークを迎えます。患者の90%以上が5歳以下の乳幼児であり、特に1歳代での発症が最も多いとされています。多くの子どもにとって「初めての高熱」となることも少なくありません。ヘルパンギーナの最も特徴的な症状は、何の前触れもなく突然現れる38度から40度の高熱と、それに伴う強烈な「喉の痛み」です。この喉の痛みは、ウイルスが喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や上顎の柔らかい部分(軟口蓋)に、多数の小さな水ぶくれ(小水疱)と、それが破れた後の潰瘍(口内炎)を形成することによって引き起こされます。この痛みのために、子どもは食事や水分を摂ることを嫌がり、機嫌が非常に悪くなるだけでなく、脱水症状に陥る危険性もあります。ヘルパンギーナの原因はウイルスであるため、インフルエンザのような特効薬(抗ウイルス薬)は存在しません。そのため、治療は基本的に、高熱や喉の痛みといったつらい症状を和らげるための「対症療法」が中心となります。通常は、発症から1週間程度で自然に回復に向かう予後良好な疾患ですが、その間の症状は非常に強く、看病する家族にとっては心身ともに負担の大きい病気と言えるでしょう。
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なぜ夏は下痢をしやすい?考えられる4つの主な原因
うだるような暑さが続く夏。多くの人が夏バテや熱中症に気を配りますが、同時に「お腹の不調」、特に「下痢」に悩まされる人が急増する季節でもあります。なぜ、夏になると私たちの胃腸はデリケートになってしまうのでしょうか。その背景には、夏特有の生活習慣や環境が複雑に絡み合っています。夏の不調を乗り切るためには、まずその原因を正しく理解することが不可欠です。夏の主な原因は、大きく分けて4つ考えられます。第一に、「冷たい飲食物の過剰摂取」です。猛暑の中で、つい冷たいジュースやビール、アイスクリームやかき氷などを一気に摂りがちですが、これが胃腸を直接冷やし、消化機能を著しく低下させてしまいます。第二に、「冷房による体の冷えと自律神経の乱れ」です。屋外の炎天下と、キンキンに冷えた室内の急激な温度差は、体温調節を司る自律神経に大きな負担をかけます。自律神経が乱れると、胃腸の正常な蠕動(ぜんどう)運動がコントロールできなくなり、下痢や便秘を引き起こすのです。これは「冷房病(クーラー病)」とも呼ばれます。第三に、高温多湿の環境がもたらす「感染性胃腸炎(食中毒)」のリスク増大です。夏は、サルモネラ菌やカンピロバクターといった細菌が増殖するのに最適な季節です。バーベキューやアウトドアでの食事、作り置きのお弁当など、食品が傷みやすい状況が増えることも、食中毒のリスクを高めます。そして第四に、「寝冷え」です。熱帯夜にエアコンや扇風機をつけたまま寝てしまうことで、知らず知らずのうちにお腹を冷やし、腸の動きが過剰になって下痢を引き起こしてしまいます。これらの原因は、単独で影響することもあれば、複合的に絡み合って胃腸の不調を招くこともあります。この記事シリーズでは、これらの原因を一つずつ掘り下げ、それぞれのメカニズムと具体的な対策について詳しく解説していきます。夏のつらい下痢を予防し、快適な毎日を送るための知識を身につけましょう。
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乾いた咳が長く続く「非定型肺炎」マイコプラズマとクラミジア
高熱と咳が続くものの、肺炎球菌などによる典型的な肺炎とは少し様子が違う。痰はあまり絡まず、コンコン、ケンケンといった乾いた咳が、一度出始めると止まらなくなるほどしつこく続く。胸のレントゲンを撮っても、肺炎に特徴的なハッキリとした影が見られないこともある。このような場合に疑われるのが、「非定型肺炎」です。非定型肺炎とは、その名の通り、典型的な肺炎とは異なる特徴を持つ肺炎の総称で、その主な原因となるのが「マイコプラズマ」と「クラミジア」という微生物です。これらの微生物は、細菌とウイルスの中間のような性質を持ち、一般的な細菌性肺炎の治療に用いられるペニシリン系やセフェム系の抗生物質が効かない、という大きな特徴があります。特に「マイコプラズマ肺炎」は、幼児から若い成人に多く見られ、学校や家庭内などで集団感染を起こすこともあります。潜伏期間が2~3週間と長く、初期は発熱、倦怠感、頭痛といった症状で始まり、少し遅れてから、頑固で激しい乾いた咳が出現します。熱は、38度以上の高熱が続くこともあれば、微熱が長引くこともあり、様々です。喉の痛みも強く、全身症状が強い割には、聴診やレントゲンでの所見が乏しいことも、この病気の特徴です。一方、「クラミジア肺炎」も同様に、乾いた咳と発熱が主な症状ですが、高齢者にも比較的多く見られ、嗄声(声がれ)を伴うことが多いとされています。これらの非定型肺炎が疑われる場合、受診すべきは「内科」または「呼吸器内科」です。診断のためには、血液検査でマイコプラズマやクラミジアに対する抗体の量を測定したり、近年では喉のぬぐい液などを用いた遺伝子検査(PCR法など)が行われたりします。治療には、これらの微生物に有効な、特殊なタイプの抗生物質が必要です。具体的には、「マクロライド系」(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)や、「テトラサイクリン系」(ミノサイクリンなど)、「ニューキノロン系」の抗生物質が用いられます。適切な抗生物質を服用すれば、劇的に症状が改善することが期待できます。原因不明のしつこい咳と熱が続く場合は、非定型肺炎の可能性も念頭に、専門医の診察を受けることが重要です。
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ヘルパンギーナと手足口病の喉の違い
夏に流行する子どもの感染症で、高熱と口の中の発疹を特徴とするものに、ヘルパンギーナとよく似た「手足口病」があります。どちらも同じエンテロウイルス属のウイルスが原因となることが多く、症状も似ているため、保護者の方が混乱することも少なくありません。しかし、それぞれの病気には、特に発疹が現れる場所に明確な違いがあり、それが鑑別の重要なポイントとなります。最も大きな違いは、その名の通り、発疹が「喉の奥に限局するか、手足にも広がるか」という点です。ヘルパンギーナの発疹(水疱や潰瘍)は、原則として口の中、それも喉の奥の、上顎の柔らかい部分(軟口蓋)や、のどちんこの両脇(口蓋弓)といった部分に集中して現れます。手や足、体の他の部分に発疹が出ることはありません。一方、手足口病の場合は、口の中の発疹に加えて、その名の通り「手のひら」や「足の裏、足の甲」、さらには「お尻」や「膝」などにも、米粒大の赤い発疹や水ぶくれができます。したがって、子どもが喉の痛みを訴えた際には、必ず手と足の裏を確認することが、鑑別の第一歩となります。また、口の中の発疹の分布にも、若干の傾向の違いが見られます。ヘルパンギーナは、前述の通り喉の「奥」が主戦場ですが、手足口病の場合は、喉の奥だけでなく、舌や頬の内側の粘膜、歯茎といった、より口の「前方」にも発疹ができやすいという特徴があります。ヘルパンギーナの痛みは主に嚥下痛ですが、手足口病では舌や頬の潰瘍の痛みで、食事そのものが困難になることもあります。どちらの病気もウイルス性のため、治療法は対症療法が中心という点では同じですが、症状の広がりを正しく理解しておくことが、適切なケアに繋がります。
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大人の耳下腺炎、熱なしでも要注意?考えられる原因と診療科
ある日、鏡を見ると、片方あるいは両方の耳の下から顎にかけての部分、いわゆる「耳下腺」がぷっくりと腫れている。しかし、熱はなく、体もだるくない。このような「熱なしの耳下腺炎」は、特に大人に起こると「ただの腫れだろう」と様子を見てしまいがちですが、その背後には様々な原因が隠れている可能性があり、自己判断は禁物です。耳下腺は、唾液を産生する三大唾液腺の中で最も大きい器官であり、ここに炎症が起こった状態を「耳下腺炎」と呼びます。一般的に「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」が有名ですが、これはムンプスウイルスによる感染症で、通常は高熱を伴います。では、熱が出ない耳下腺の腫れは、一体何が原因なのでしょうか。考えられる原因は多岐にわたります。最も多いのは、おたふくかぜ以外のウイルスや細菌が原因となる「化膿性耳下腺炎」や、口の中の常在菌が原因となる「反復性耳下腺炎」です。また、唾液の通り道である導管に石が詰まる「唾石症」や、自己免疫の異常が関わる「シェーグレン症候群」、アレルギー反応、さらには稀ですが「耳下腺腫瘍」の可能性も考慮しなければなりません。このように、熱がないからといって、必ずしも軽症であるとは限りません。原因によって治療法は全く異なり、中には専門的な検査や長期的な管理が必要な病気もあります。耳下腺の腫れに気づいた時に、まず受診すべき専門診療科は「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科医は、唾液腺の構造と病気に精通しており、触診や超音波(エコー)検査、CT検査などを用いて、腫れの原因を正確に診断することができます。この記事では、大人が経験する「熱なしの耳下腺炎」の様々な原因とその特徴について、詳しく解説していきます。
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最も警戒すべき「耳下腺腫瘍」の可能性と見分け方
熱がなく、痛みもないのに、片方の耳下腺だけが、しこりのように硬く腫れている。そして、その腫れが数ヶ月経っても消えず、むしろ少しずつ大きくなっているような気がする。このような症状の場合、最も警戒しなければならないのが「耳下腺腫瘍」の可能性です。耳下腺にできる腫瘍は、その約80%が良性であり、悪性(がん)であることは比較的稀です。しかし、良性であっても放置すれば大きくなって容姿に影響したり、稀に悪性化したりする可能性もあるため、早期の正確な診断が極めて重要です。耳下腺腫瘍と、他の炎症性の腫れとを見分けるための、いくつかの特徴があります。まず、炎症性の腫れ(耳下腺炎など)が、比較的短期間で症状が変化し、痛みや熱感を伴うことが多いのに対し、腫瘍は、通常「無痛性」で、ゆっくりと進行するのが特徴です。触ってみると、炎症では全体的にブヨブヨと腫れている感じですが、腫瘍では、弾力のあるゴムのような、あるいは石のように硬い「しこり」として触れることが多いです。また、炎症は両側に起こることもありますが、腫瘍はほとんどの場合、「片側性」に発生します。そして、最も重要な危険なサインが、「顔面神経麻痺」を伴っている場合です。耳下腺の中には、顔の表情筋を動かすための重要な神経である「顔面神経」が通っています。腫瘍がこの神経に浸潤(しんじゅん)すると、腫れている側の顔が歪んだり、目が閉じにくくなったり、口角が下がったりといった麻痺の症状が現れます。痛みと共に顔面神経麻痺が出現した場合は、悪性腫瘍である可能性が非常に高くなります。耳下腺腫瘍の診断と治療は、「耳鼻咽喉科」の中でも、特に頭頸部外科を専門とする医師が担当します。診察では、まず触診でしこりの硬さや動きを確認し、超音波(エコー)検査やCT、MRIといった画像検査で、腫瘍の大きさや場所、性質を詳しく評価します。そして、診断を確定するためには、「穿刺吸引細胞診」という検査が行われます。これは、細い針をしこりに刺して、中の細胞を少量吸引し、顕微鏡で良性か悪性かを調べる検査です。耳下腺腫瘍の治療は、良性・悪性を問わず、基本的には手術による摘出となります。心配な「しこり」に気づいたら、絶対に放置せず、専門医の診察を受けてください。
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ごく稀だが注意すべき合併症、こんな症状はすぐ病院へ
手足口病は、ほとんどの場合、発熱と発疹だけで、数日から1週間程度で自然に治癒する、比較的予後の良い病気です。しかし、ごく稀ではありますが、重篤な合併症を引き起こし、後遺症を残したり、命に関わったりすることがあるため、その危険なサインを知っておくことは非常に重要です。特に、原因ウイルスが「エンテロウイルス71(EV71)」である場合に、重症化しやすい傾向があることが知られています。保護者の方は、単なる夏風邪と侮らず、病気の経過中、子どもの様子を注意深く観察してください。最も注意すべき合併症は、ウイルスが中枢神経系に感染することで起こる「急性脳炎」や「無菌性髄膜炎」です。これらの病気を疑うべき危険なサインは、「ぐったりしていて、呼びかけへの反応が悪い」「意識がもうろうとしている、視線が合わない」「頭をひどく痛がる(特に年長児の場合)」「嘔吐を何度も繰り返す」「原因不明のけいれんを起こす」といった症状です。発熱に伴う「熱性けいれん」は手足口病でも見られることがありますが、けいれんが5分以上続く、短い間隔で繰り返す、けいれん後の意識の回復が悪いといった場合は、より重篤な脳炎の可能性を考える必要があります。また、ウイルスが心臓の筋肉に感染する「心筋炎」や、肺に水がたまる「肺水腫」も、稀ですが致死的な合併症です。「顔色が悪く、唇が紫色になっている」「呼吸が速く、苦しそう」「脈が異常に速い、または弱い」といった症状が見られた場合は、循環器系や呼吸器系に異常が起きているサインかもしれません。これらの重篤な合併症は、病気の初期段階、特に高熱が出ている時期に起こりやすいとされています。したがって、「高熱が2日以上続く」「嘔吐を繰り返し、水分が全く摂れず、ぐったりしている」といった状態が見られたら、たとえ夜間や休日であっても、様子を見ずに直ちに医療機関(救急外来)を受診してください。ほとんどは軽症で済む手足口病ですが、「いつもと様子が違う」と保護者が感じた直感は、非常に重要です。子どもの重症化のサインを見逃さないために、少しでも不安な点があれば、ためらわずに医師の診察を受けるようにしましょう。
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稀だが重要な原因、心臓や血管、甲状腺の病気
首の痛みというと、どうしても首そのものの筋肉や骨、神経に原因を求めてしまいがちですが、ごく稀に、首から離れた場所にある臓器の病気が、関連痛(放散痛)として首に痛みのサインを送ってくることがあります。これらは見逃されやすいですが、中には命に関わる病気もあるため、知識として知っておくことが重要です。その代表格が「心臓」の病気、特に「狭心症」や「心筋梗塞」です。これらの病気は、心臓に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりすることで、心臓の筋肉が酸素不足に陥り、胸に強い圧迫感や締め付けられるような痛みが起こるのが典型的な症状です。しかし、この痛みは、胸だけでなく、左肩や左腕、顎、そして「首」にまで広がることがあります。これを放散痛と呼びます。もし、体を動かした時(階段を上るなど)に、胸の不快感と共に、首の左側が締め付けられるように痛くなり、休むと治まる、といった症状があれば、狭心症の可能性があります。安静にしていても痛みが治まらない場合は、心筋梗塞の危険性が高く、直ちに「循環器内科」を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。また、「大動脈解離」という、心臓から出る最も太い血管が裂けてしまう緊急疾患でも、胸や背中の激痛と共に、首に痛みが及ぶことがあります。次に、首の前方、喉仏の下あたりにある「甲状腺」の病気も、首の痛みの原因となります。「亜急性甲状腺炎」は、ウイルス感染などが引き金となって甲状腺に炎症が起こる病気で、首の前側の痛み、特に押すと強い痛み(圧痛)があり、その痛みは耳や顎にまで広がることがあります。発熱や全身の倦怠感を伴うことが多く、甲状腺ホルモンが一時的に過剰になるため、動悸や多汗などの症状が見られることもあります。この場合は、「内分泌内科」や「耳鼻咽喉科」が専門となります。このように、首の痛みは、必ずしも首だけの問題とは限りません。特に、動悸や息切れ、発熱といった全身症状を伴う場合や、痛みの出方に特徴がある場合は、これらの稀な原因も念頭に置き、幅広い視点で原因を探ってくれる内科医などに相談することが大切です。