-
朝の一歩目が痛いなら足底腱膜炎かも
朝、目が覚め、ベッドから降りて、さあ一日を始めようと、床に足をついた、まさにその最初の一歩。その瞬間、かかとに、まるで釘を踏み抜いたかのような、あるいはガラスの破片が突き刺さったかのような、激烈な痛みが走る。あまりの痛さに、思わず「うっ」と声が漏れ、数歩はつま先で歩かなければならない。しかし、しばらく歩いているうちに、不思議と痛みは少しずつ和らいでいく。もし、あなたがこのような特徴的な痛みを経験しているなら、それは「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」という、かかとの痛みの代表的な病気である可能性が非常に高いです。足底腱膜炎は、その名の通り、足の裏にある「足底腱膜」という、強靭な繊維の膜に炎症が起きた状態です。足底腱膜は、かかとの骨(踵骨)から、足の五本の指の付け根に向かって、扇状に広がっており、私たちが歩いたり、走ったりする際に、地面から受ける衝撃を吸収する「クッション」の役割と、土踏まず(アーチ)を弓の弦のように支える「バネ」の役割を担っています。この重要な足底腱膜に、長時間の立ち仕事や、ランニングなどのスポーツ、あるいは加齢や体重の増加によって、繰り返し過剰な負担がかかると、その付け根である、かかとの骨の部分に、微細な断裂や、炎症が生じてしまうのです。では、なぜ特に「朝の一歩目」に、あれほどの激痛が走るのでしょうか。それは、私たちが眠っている間に、硬く縮こまっていた足底腱膜が、起床して体重をかけた瞬間に、急激に、そして強制的に引き伸ばされるからです。縮んでいた古いゴムを、いきなり強く引っ張るようなものです。炎症を起こしている、傷ついた組織が、無理やり引き伸ばされることで、激しい痛みが生じるのです。そして、しばらく歩いているうちに、足底腱膜が少しずつほぐれ、柔軟性を取り戻すことで、痛みが和らいでいく、というわけです。この「起床時の一歩目の痛み」は、足底腱膜炎を診断する上で、極めて重要な手がかりとなります。もし、あなたの朝が、このつらい痛みから始まっているのであれば、それは、あなたの足の裏が、限界を超えていることを知らせる、悲鳴なのかもしれません。
-
脂質異常症は症状がないからこそ病院へ行くべき
健康診断で「脂質異常症」や「コレステロール値が高い」と指摘されたものの、体に痛みやかゆみといった自覚症状が全くないため、「まあ、大丈夫だろう」「まだ若いから」と、つい結果を放置してしまってはいませんか。その判断は、実は非常に危険です。脂質異常症の最も恐ろしい点は、まさにその「自覚症状がない」という点にあります。水面下で静かに、しかし着実に、あなたの血管を蝕んでいく「サイレントキラー(沈黙の暗殺者)」、それこそが脂質異常症の本当の姿なのです。脂質異常症とは、血液中のLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が多すぎる、あるいはHDL(善玉)コレステロールが少なすぎる状態を指します。この状態が長く続くと、余分な脂質が血管の内壁に少しずつ蓄積し、血管が硬く、そして狭くなる「動脈硬化」が進行していきます。動脈硬化は、それ自体が直接的な症状を引き起こすことはありません。しかし、血管の狭くなった部分に血栓(血の塊)が詰まると、事態は一変します。その詰まった先が心臓の血管(冠動脈)であれば、ある日突然、激しい胸の痛みに襲われる「心筋梗塞」を。脳の血管であれば、麻痺や言語障害を引き起こす「脳梗塞」を発症するのです。これらの病気は、命を奪うだけでなく、たとえ一命を取り留めたとしても、その後の人生に深刻な後遺症を残す可能性があります。健康診断で指摘された異常値は、あなたの体が発している、未来の危険を知らせる重要な警告サインです。自覚症状がない今のうちに、専門家である医師の診断を仰ぎ、適切な対策を始めること。それこそが、サイレントキラーの静かなる脅威から、あなた自身の未来と、大切な家族の暮らしを守るための、最も賢明で、そして唯一の正しい選択と言えるのです。
-
かかとが痛い!考えられる原因とは?
朝、ベッドから降りて最初の一歩を踏み出した瞬間、かかとに「ズキン!」と走る、ガラスの破片を踏んだかのような鋭い痛み。あるいは、長時間歩いた後に、かかとの中心がジンジンと痛む。そんな「かかとの痛み」に悩まされている方は、決して少なくありません。私たちの体重を一身に支え、歩行や走行の衝撃を吸収するという、重要な役割を担っているかかと。その酷使されがちな構造ゆえに、実に様々な原因によって、痛みのサインを発するのです。かかとの痛みの原因として、まず最も頻度が高いのが、「足底腱膜炎(そくていけんまくえん)」です。これは、かかとの骨から足の指の付け根まで、土踏まずを支えるようについている「足底腱膜」という、強靭な繊維の膜に、過度な負担がかかることで、炎症や微細な断裂が生じる病気です。特に、起床時の一歩目に、激しい痛みを感じるのが、この病気の典型的な特徴です。次に、成長期の子供や、スポーツを活発に行う若者に多く見られるのが、「踵骨骨端症(しょうこつこったんしょう)」、通称「シーバー病」です。これは、かかとの骨の、まだ柔らかい成長軟骨部分に、アキレス腱などが引っ張る力が繰り返し加わることで、炎症が起きてしまう状態です。また、中高年の女性に多いのが、かかとの骨の後ろ側、アキレス腱の付け根あたりが痛む「アキレス腱付着部炎」や、その部分に骨の棘(とげ)ができてしまう「ハグルンド病」です。ハイヒールなどで、靴のかかと部分が、常にアキレス腱の付け根を圧迫することが、原因の一つと考えられています。さらに、稀ではありますが、かかとの骨の「疲労骨折」や、神経が圧迫される「足根管症候群」、あるいは痛風や関節リウマチといった、全身性の病気の一症状として、かかとの痛みが現れることもあります。このように、一口に「かかとの痛み」と言っても、その原因は、痛む場所や、痛みの出るタイミング、そしてあなたの年齢や生活習慣によって、実に様々です。正しい治療のためには、まず、その痛みの根本原因を、正確に突き止めることが、何よりも重要となるのです。
-
この数値なら病院へ行くべき脂質異常症の基準
健康診断の結果票に並ぶ、たくさんの専門用語と数字。「どの数値が、どれくらい悪いと、病院へ行くべきなの?」と、具体的な基準がわからずに、不安に思っている方も多いでしょう。脂質異常症は、血液検査における主に四つの項目の数値によって診断されます。まず、最もよく知られているのが「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)」です。これは、増えすぎると血管壁に蓄積し、動脈硬化の直接的な原因となります。基準値は「140mg/dL未満」とされており、これを超えると高LDLコレステロール血症と診断されます。次に、「HDLコレステロール(善玉コレステロール)」です。これは、血管壁にたまった余分なコレステロールを回収してくれる、いわば「血管のお掃除役」です。そのため、この数値は低いことが問題となり、基準値は「40mg/dL以上」とされています。これを下回ると、低HDLコレステロール血症と診断されます。三つ目が、「トリグリセライド(中性脂肪)」です。これも、増えすぎると動脈硬化の原因となります。基準値は「150mg/dL以上(空腹時採血)」で、これを超えると高トリグリセライド血症とされます。そして近年、新たな指標として重視されているのが、「non-HDLコレステロール」です。これは、総コレステロールからHDLコレステロールを引いた数値で、悪玉とされるコレステロール全体の量を反映しています。基準値は「170mg/dL以上」です。これらの基準値を一つでも満たした場合、あなたは脂質異常症と診断されます。しかし、重要なのは、単に基準値を超えたからといって、すぐに薬物治療が始まるわけではない、という点です。医師は、これらの数値に加えて、あなたの年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、そして家族に心筋梗塞などを起こした人がいるか、といった他の危険因子を総合的に評価し、将来的な心筋梗塞のリスクがどの程度高いかを判断します。そして、そのリスクに応じて、生活習慣の改善だけで様子を見るのか、あるいはすぐに薬物治療を開始するのかを決定するのです。つまり、健康診断で「要再検査」や「要精密検査」と指摘された場合は、数値の大小にかかわらず、まずは一度、専門医による、この総合的なリスク評価を受けることが、何よりも重要となるのです。
-
脂質異常症の病院選びまず何科を受診する?
健康診断で脂質異常症を指摘され、病院へ行くことを決意した。しかし、次に多くの人が直面するのが「一体、何科の病院に行けば良いのだろう?」という、意外と難しい問題です。内科なのか、循環器科なのか、あるいは専門外来が良いのか。その問いに対する最もシンプルで、そして最も正しい答えは、「まずは、お近くの内科、あるいは循環器内科を受診する」ということです。特に、普段から風邪などで通っている「かかりつけの内科医」がいる場合は、そこが最適な最初の相談窓口となります。内科は、体の不調を総合的に診断・治療する専門家です。脂質異常症の診断に不可欠な血液検査の再検査はもちろんのこと、脂質異常症と密接に関連する、他の生活習慣病、例えば「高血圧」や「糖尿病」の有無についても、同時にチェックしてくれます。これらの病気は、それぞれが動脈硬化を進行させる危険因子であり、複数が重なることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクは飛躍的に高まります。内科医は、あなたの血液データだけでなく、血圧や血糖値、肥満度、喫煙歴、家族歴といった、様々な情報を総合的に評価し、あなたの将来的なリスクがどの程度なのかを、専門的な視点から判断してくれます。もし、より専門的な検査や治療が必要と判断された場合は、そこから循環器内科(心臓や血管の専門科)や、内分泌・代謝内科(ホルモンや代謝の専門科)といった、適切な専門科へと紹介してもらうことができます。最近では、「脂質異常症外来」や「生活習慣病外来」といった、専門外来を設けている病院やクリニックもあります。もし、お近くにそのような専門外来があれば、そこを受診するのも非常に良い選択です。何科に行くべきか迷ったら、まずは体の状態を総合的に診てくれる内科を受診し、そこを起点として、専門的な診断と治療への道筋をつけてもらう。それが、原因不明の不調から抜け出すための、最も確実で安心なルートなのです。
-
脂質異常症の病院では何をする?検査と治療法
「脂質異常症で病院に行く」と決めたものの、そこで一体どのような検査が行われ、どんな治療が始まるのか、具体的な流れがわからずに、不安を感じている方もいるかもしれません。ここでは、病院で行われる基本的な検査と治療の流れについて解説します。まず、診察室で最初に行われるのが、丁寧な「問診」です。医師は、あなたの健康診断の結果票を確認しながら、普段の食生活(肉や揚げ物は好きか、野菜は摂れているかなど)、運動習慣、喫煙や飲酒の習慣、そして家族(特に親や兄弟)に心筋梗塞や脳梗塞になった人がいないか(家族歴)といった、生活習慣や遺伝的なリスクについて、詳しく質問します。これらの情報は、治療方針を決める上で非常に重要です。次に行われるのが、身長、体重、腹囲の測定と、血圧の測定といった「身体診察」です。そして、診断の確定と、治療効果の判定のために、再度「血液検査」と「尿検査」が行われます。この血液検査で、脂質異常症の診断基準となる数値を、より正確に再評価します。これらの基本的な検査に加えて、動脈硬化がどの程度進行しているかを調べるための、追加の検査が行われることもあります。その代表的なものが「頸動脈エコー(超音波)検査」です。首の動脈(頸動脈)に超音波を当てるだけの、痛みも被曝もない簡単な検査で、血管の壁の厚さや、プラーク(脂質の塊)の有無を直接観察することができます。これにより、あなたの血管の「実年齢」を知ることができるのです。これらの検査結果を総合的に判断し、医師は治療方針を決定します。脂質異常症の治療の基本、そして第一歩は、薬ではありません。必ず「生活習慣の改善」、すなわち「食事療法」と「運動療法」から始まります。医師や管理栄養士から、具体的な食事の改善点(脂質の多い食品を控える、食物繊維を多く摂るなど)や、ウォーキングなどの有酸素運動の推奨といった、専門的な指導を受けます。そして、この生活習慣の改善を数ヶ月続けても、数値が十分に改善しない場合や、あるいは最初の診断の時点で、心筋梗塞などのリスクが非常に高いと判断された場合に、初めて「薬物療法」が検討されます。治療の主役は、あくまであなた自身の生活習慣の改善です。医師はそのサポーターとして、あなたの健康づくりを伴走してくれるのです。
-
ヘルパンギーナとはどんな病気?
夏になると、子どもたちの間で決まって流行し、多くの保護者を悩ませる感染症、いわゆる「夏風邪」。その代表格であり、特に強烈な症状で知られるのが「ヘルパンギーナ」です。この病気は、主にエンテロウイルス属に分類されるウイルス群、その中でも特に「コクサッキーウイルスA群」の複数の型が原因となって引き起こされます。感染力が非常に強く、ウイルスが付着したおもちゃの共有や、くしゃみの飛沫などを介して、保育園や幼稚園、小学校といった集団生活の場で急速に感染が拡大します。例年、湿度と気温が上がる5月頃から患者数が増え始め、7月から8月の真夏に流行のピークを迎えます。患者の90%以上が5歳以下の乳幼児であり、特に1歳代での発症が最も多いとされています。多くの子どもにとって「初めての高熱」となることも少なくありません。ヘルパンギーナの最も特徴的な症状は、何の前触れもなく突然現れる38度から40度の高熱と、それに伴う強烈な「喉の痛み」です。この喉の痛みは、ウイルスが喉の奥、特に口蓋垂(のどちんこ)の周辺や上顎の柔らかい部分(軟口蓋)に、多数の小さな水ぶくれ(小水疱)と、それが破れた後の潰瘍(口内炎)を形成することによって引き起こされます。この痛みのために、子どもは食事や水分を摂ることを嫌がり、機嫌が非常に悪くなるだけでなく、脱水症状に陥る危険性もあります。ヘルパンギーナの原因はウイルスであるため、インフルエンザのような特効薬(抗ウイルス薬)は存在しません。そのため、治療は基本的に、高熱や喉の痛みといったつらい症状を和らげるための「対症療法」が中心となります。通常は、発症から1週間程度で自然に回復に向かう予後良好な疾患ですが、その間の症状は非常に強く、看病する家族にとっては心身ともに負担の大きい病気と言えるでしょう。
-
なぜ夏は下痢をしやすい?考えられる4つの主な原因
うだるような暑さが続く夏。多くの人が夏バテや熱中症に気を配りますが、同時に「お腹の不調」、特に「下痢」に悩まされる人が急増する季節でもあります。なぜ、夏になると私たちの胃腸はデリケートになってしまうのでしょうか。その背景には、夏特有の生活習慣や環境が複雑に絡み合っています。夏の不調を乗り切るためには、まずその原因を正しく理解することが不可欠です。夏の主な原因は、大きく分けて4つ考えられます。第一に、「冷たい飲食物の過剰摂取」です。猛暑の中で、つい冷たいジュースやビール、アイスクリームやかき氷などを一気に摂りがちですが、これが胃腸を直接冷やし、消化機能を著しく低下させてしまいます。第二に、「冷房による体の冷えと自律神経の乱れ」です。屋外の炎天下と、キンキンに冷えた室内の急激な温度差は、体温調節を司る自律神経に大きな負担をかけます。自律神経が乱れると、胃腸の正常な蠕動(ぜんどう)運動がコントロールできなくなり、下痢や便秘を引き起こすのです。これは「冷房病(クーラー病)」とも呼ばれます。第三に、高温多湿の環境がもたらす「感染性胃腸炎(食中毒)」のリスク増大です。夏は、サルモネラ菌やカンピロバクターといった細菌が増殖するのに最適な季節です。バーベキューやアウトドアでの食事、作り置きのお弁当など、食品が傷みやすい状況が増えることも、食中毒のリスクを高めます。そして第四に、「寝冷え」です。熱帯夜にエアコンや扇風機をつけたまま寝てしまうことで、知らず知らずのうちにお腹を冷やし、腸の動きが過剰になって下痢を引き起こしてしまいます。これらの原因は、単独で影響することもあれば、複合的に絡み合って胃腸の不調を招くこともあります。この記事シリーズでは、これらの原因を一つずつ掘り下げ、それぞれのメカニズムと具体的な対策について詳しく解説していきます。夏のつらい下痢を予防し、快適な毎日を送るための知識を身につけましょう。
-
乾いた咳が長く続く「非定型肺炎」マイコプラズマとクラミジア
高熱と咳が続くものの、肺炎球菌などによる典型的な肺炎とは少し様子が違う。痰はあまり絡まず、コンコン、ケンケンといった乾いた咳が、一度出始めると止まらなくなるほどしつこく続く。胸のレントゲンを撮っても、肺炎に特徴的なハッキリとした影が見られないこともある。このような場合に疑われるのが、「非定型肺炎」です。非定型肺炎とは、その名の通り、典型的な肺炎とは異なる特徴を持つ肺炎の総称で、その主な原因となるのが「マイコプラズマ」と「クラミジア」という微生物です。これらの微生物は、細菌とウイルスの中間のような性質を持ち、一般的な細菌性肺炎の治療に用いられるペニシリン系やセフェム系の抗生物質が効かない、という大きな特徴があります。特に「マイコプラズマ肺炎」は、幼児から若い成人に多く見られ、学校や家庭内などで集団感染を起こすこともあります。潜伏期間が2~3週間と長く、初期は発熱、倦怠感、頭痛といった症状で始まり、少し遅れてから、頑固で激しい乾いた咳が出現します。熱は、38度以上の高熱が続くこともあれば、微熱が長引くこともあり、様々です。喉の痛みも強く、全身症状が強い割には、聴診やレントゲンでの所見が乏しいことも、この病気の特徴です。一方、「クラミジア肺炎」も同様に、乾いた咳と発熱が主な症状ですが、高齢者にも比較的多く見られ、嗄声(声がれ)を伴うことが多いとされています。これらの非定型肺炎が疑われる場合、受診すべきは「内科」または「呼吸器内科」です。診断のためには、血液検査でマイコプラズマやクラミジアに対する抗体の量を測定したり、近年では喉のぬぐい液などを用いた遺伝子検査(PCR法など)が行われたりします。治療には、これらの微生物に有効な、特殊なタイプの抗生物質が必要です。具体的には、「マクロライド系」(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)や、「テトラサイクリン系」(ミノサイクリンなど)、「ニューキノロン系」の抗生物質が用いられます。適切な抗生物質を服用すれば、劇的に症状が改善することが期待できます。原因不明のしつこい咳と熱が続く場合は、非定型肺炎の可能性も念頭に、専門医の診察を受けることが重要です。
-
ヘルパンギーナと手足口病の喉の違い
夏に流行する子どもの感染症で、高熱と口の中の発疹を特徴とするものに、ヘルパンギーナとよく似た「手足口病」があります。どちらも同じエンテロウイルス属のウイルスが原因となることが多く、症状も似ているため、保護者の方が混乱することも少なくありません。しかし、それぞれの病気には、特に発疹が現れる場所に明確な違いがあり、それが鑑別の重要なポイントとなります。最も大きな違いは、その名の通り、発疹が「喉の奥に限局するか、手足にも広がるか」という点です。ヘルパンギーナの発疹(水疱や潰瘍)は、原則として口の中、それも喉の奥の、上顎の柔らかい部分(軟口蓋)や、のどちんこの両脇(口蓋弓)といった部分に集中して現れます。手や足、体の他の部分に発疹が出ることはありません。一方、手足口病の場合は、口の中の発疹に加えて、その名の通り「手のひら」や「足の裏、足の甲」、さらには「お尻」や「膝」などにも、米粒大の赤い発疹や水ぶくれができます。したがって、子どもが喉の痛みを訴えた際には、必ず手と足の裏を確認することが、鑑別の第一歩となります。また、口の中の発疹の分布にも、若干の傾向の違いが見られます。ヘルパンギーナは、前述の通り喉の「奥」が主戦場ですが、手足口病の場合は、喉の奥だけでなく、舌や頬の内側の粘膜、歯茎といった、より口の「前方」にも発疹ができやすいという特徴があります。ヘルパンギーナの痛みは主に嚥下痛ですが、手足口病では舌や頬の潰瘍の痛みで、食事そのものが困難になることもあります。どちらの病気もウイルス性のため、治療法は対症療法が中心という点では同じですが、症状の広がりを正しく理解しておくことが、適切なケアに繋がります。