首の痛みというと、どうしても首そのものの筋肉や骨、神経に原因を求めてしまいがちですが、ごく稀に、首から離れた場所にある臓器の病気が、関連痛(放散痛)として首に痛みのサインを送ってくることがあります。これらは見逃されやすいですが、中には命に関わる病気もあるため、知識として知っておくことが重要です。その代表格が「心臓」の病気、特に「狭心症」や「心筋梗塞」です。これらの病気は、心臓に血液を送る冠動脈が狭くなったり詰まったりすることで、心臓の筋肉が酸素不足に陥り、胸に強い圧迫感や締め付けられるような痛みが起こるのが典型的な症状です。しかし、この痛みは、胸だけでなく、左肩や左腕、顎、そして「首」にまで広がることがあります。これを放散痛と呼びます。もし、体を動かした時(階段を上るなど)に、胸の不快感と共に、首の左側が締め付けられるように痛くなり、休むと治まる、といった症状があれば、狭心症の可能性があります。安静にしていても痛みが治まらない場合は、心筋梗塞の危険性が高く、直ちに「循環器内科」を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。また、「大動脈解離」という、心臓から出る最も太い血管が裂けてしまう緊急疾患でも、胸や背中の激痛と共に、首に痛みが及ぶことがあります。次に、首の前方、喉仏の下あたりにある「甲状腺」の病気も、首の痛みの原因となります。「亜急性甲状腺炎」は、ウイルス感染などが引き金となって甲状腺に炎症が起こる病気で、首の前側の痛み、特に押すと強い痛み(圧痛)があり、その痛みは耳や顎にまで広がることがあります。発熱や全身の倦怠感を伴うことが多く、甲状腺ホルモンが一時的に過剰になるため、動悸や多汗などの症状が見られることもあります。この場合は、「内分泌内科」や「耳鼻咽喉科」が専門となります。このように、首の痛みは、必ずしも首だけの問題とは限りません。特に、動悸や息切れ、発熱といった全身症状を伴う場合や、痛みの出方に特徴がある場合は、これらの稀な原因も念頭に置き、幅広い視点で原因を探ってくれる内科医などに相談することが大切です。
稀だが重要な原因、心臓や血管、甲状腺の病気