検診・予防接種・健康管理の総合案内

2025年9月
  • 原因②冷房が引き起こす「自律神経の乱れ」と下痢

    医療

    夏の快適な生活に欠かせない冷房(エアコン)。しかし、この文明の利器が、実は夏の体調不良、特に下痢の大きな原因となっていることがあります。屋外の35度を超える猛暑の世界から、25度前後の冷房が効いた室内へ。この10度以上にもなる急激な温度差に、私たちの体は悲鳴を上げています。この温度変化のストレスに最も影響を受けるのが、体温調節や内臓の働きをコントロールしている「自律神経」です。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取り合うことで、私たちの体は健康を維持しています。暑い屋外では、体は汗をかいて熱を逃がすために副交感神経が優位になります。しかし、冷えた室内に入ると、今度は体温を逃さないように血管を収縮させるため、交感神経が急激に活発になります。このように、一日のうちに何度も激しい温度差に晒されることで、自律神経のスイッチングが過剰になり、やがてそのバランスが崩壊してしまうのです。これが、いわゆる「冷房病(クーラー病)」や「自律神経失調症」と呼ばれる状態です。そして、自律神経の乱れは、胃腸の働きに直接的な影響を及ぼします。胃腸の蠕動運動は、主にリラックスしている時に働く副交感神経によってコントロールされています。しかし、自律神経のバランスが崩れると、このコントロールが効かなくなり、腸の動きが異常に活発になったり、逆に鈍くなったりします。特に、ストレスなどで交感神経が過剰に優位になると、腸の動きが過敏になり、痙攣(けいれん)性の収縮を起こしやすくなります。その結果、便が正常に腸内を進むことができず、水分が十分に吸収されないまま排出されることで、下痢を引き起こしてしまうのです。また、体の冷えそのものが、血行不良を招き、消化機能を低下させることも、下痢を助長する要因となります。対策としては、まず室内外の温度差を5度以内にとどめるのが理想です。職場の冷房が強すぎる場合は、カーディガンやひざ掛け、ストールなどを常備し、首、手首、足首といった「三首」を冷やさないように工夫しましょう。食事では、ショウガやネギ、唐辛子といった体を温める食材を意識的に摂ることも有効です。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かる入浴は、乱れた自律神経のバランスを整えるのに非常に効果的です。

  • しつこい咳と発熱「急性気管支炎」との違い

    医療

    高熱と咳という症状は、気管支に炎症が起こる「急性気管支炎」でも見られます。肺炎との違いは、炎症の主座がどこにあるかです。気管支炎は、喉と肺をつなぐ空気の通り道である「気管支」の粘膜が炎症を起こす病気であり、肺炎のように肺胞でのガス交換に直接的な障害が起こるわけではありません。しかし、症状が似ているため、鑑別が重要になります。急性気管支炎の最も一般的な原因は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスといった「ウイルス感染」です。風邪(急性上気道炎)に続いて発症することが多く、最初は乾いたコンコンとした咳から始まり、次第に痰が絡むゴホゴホとした湿った咳に変化していくのが典型的な経過です。発熱は、高熱が出ることもあれば、微熱程度で済むこともあり、様々です。全身の倦怠感や頭痛を伴うこともあります。気管支炎と肺炎を見分けるための重要なポイントは、「胸の痛み」と「呼吸困難」の有無です。気管支炎では、激しい咳によって胸の筋肉が痛むことはあっても、肺炎に特徴的な、深呼吸で響くような胸痛(胸膜痛)は通常ありません。また、安静にしていても息が苦しい、というような呼吸困難も、気管支炎では稀です(喘息を合併している場合を除く)。受診すべき診療科は「内科」または「呼吸器内科」です。医師は、まず聴診器で胸の音を聞き、肺炎を示唆する異常な音(ラ音など)がないかを確認します。そして、肺炎との鑑別が難しいと判断した場合には、胸部X線(レントゲン)撮影を行います。レントゲンで肺に異常な影がなければ、気管支炎と診断されます。急性気管支炎の多くはウイルス性が原因であるため、抗生物質は効果がありません。治療は、つらい症状を和らげる「対症療法」が中心となります。咳を鎮めるための鎮咳薬、痰の切れを良くするための去痰薬、熱や痛みに対する解熱鎮痛薬などが処方されます。何よりも大切なのは、十分な休養と、喉を乾燥させないためのこまめな水分補給です。通常、発熱は数日で治まり、咳も1~3週間程度で改善に向かいますが、咳だけが長引く場合は、他の病気(咳喘息や百日咳など)の可能性も考える必要があります。

  • まとめ。夏の快腸生活のために、今日からできる予防習慣

    生活

    これまで見てきたように、夏の下痢は、冷え、食中毒、自律神経の乱れなど、夏特有の様々な原因が複雑に絡み合って引き起こされます。しかし、これらの原因の多くは、日々の少しの心がけと、正しい生活習慣によって、そのリスクを大幅に減らすことが可能です。つらい夏の胃腸トラブルを未然に防ぎ、快適な毎日を送るために、今日から実践できる予防策をまとめてみましょう。予防の柱は、大きく分けて「体を冷やさない」「清潔を保つ」「自律神経を整える」の3つです。まず、「体を冷やさない」ための習慣です。喉が渇いても、キンキンに冷えた飲み物の一気飲みは避け、できるだけ常温のものを、ゆっくりと飲むようにしましょう。食事には温かいスープや味噌汁を取り入れ、内側から胃腸を温めることを意識します。冷房の効いた室内では、カーディガンやひざ掛けを活用し、特に腹部や足首を冷気から守りましょう。入浴はシャワーだけで済ませず、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、体の芯から温まり、血行を促進することができます。次に、「清潔を保つ」こと、すなわち食中毒対策です。これは、予防の三原則「つけない・増やさない・やっつける」に尽きます。調理前や食事前の石鹸による手洗いの徹底(つけない)。購入した食品は速やかに冷蔵庫へ入れ、調理したものは室温に長時間放置しない(増やさない)。そして、肉や魚介類は、中心部まで十分に加熱する(やっつける)。特に、夏のアウトドアでの食事や、お弁当の管理には細心の注意が必要です。最後に、「自律神経を整える」ための生活習慣です。規則正しい生活リズムを心がけ、十分な睡眠時間を確保することが、自律神経の安定の基本です。日中に適度な運動を取り入れることも、ストレス解消と良質な睡眠に繋がります。また、自分なりのリラックス方法(音楽を聴く、読書をする、深呼吸をするなど)を見つけ、意識的に心と体を休ませる時間を作ることも大切です。これらの予防策は、どれも特別なことではありません。しかし、夏の開放的な気分につい流されがちな、日々の基本的な生活習慣を、少しだけ意識して見直すことが、夏のつらい下痢を回避し、元気に季節を楽しむための最も確実で効果的な方法なのです。