夏の快適な生活に欠かせない冷房(エアコン)。しかし、この文明の利器が、実は夏の体調不良、特に下痢の大きな原因となっていることがあります。屋外の35度を超える猛暑の世界から、25度前後の冷房が効いた室内へ。この10度以上にもなる急激な温度差に、私たちの体は悲鳴を上げています。この温度変化のストレスに最も影響を受けるのが、体温調節や内臓の働きをコントロールしている「自律神経」です。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二種類があり、これらがシーソーのようにバランスを取り合うことで、私たちの体は健康を維持しています。暑い屋外では、体は汗をかいて熱を逃がすために副交感神経が優位になります。しかし、冷えた室内に入ると、今度は体温を逃さないように血管を収縮させるため、交感神経が急激に活発になります。このように、一日のうちに何度も激しい温度差に晒されることで、自律神経のスイッチングが過剰になり、やがてそのバランスが崩壊してしまうのです。これが、いわゆる「冷房病(クーラー病)」や「自律神経失調症」と呼ばれる状態です。そして、自律神経の乱れは、胃腸の働きに直接的な影響を及ぼします。胃腸の蠕動運動は、主にリラックスしている時に働く副交感神経によってコントロールされています。しかし、自律神経のバランスが崩れると、このコントロールが効かなくなり、腸の動きが異常に活発になったり、逆に鈍くなったりします。特に、ストレスなどで交感神経が過剰に優位になると、腸の動きが過敏になり、痙攣(けいれん)性の収縮を起こしやすくなります。その結果、便が正常に腸内を進むことができず、水分が十分に吸収されないまま排出されることで、下痢を引き起こしてしまうのです。また、体の冷えそのものが、血行不良を招き、消化機能を低下させることも、下痢を助長する要因となります。対策としては、まず室内外の温度差を5度以内にとどめるのが理想です。職場の冷房が強すぎる場合は、カーディガンやひざ掛け、ストールなどを常備し、首、手首、足首といった「三首」を冷やさないように工夫しましょう。食事では、ショウガやネギ、唐辛子といった体を温める食材を意識的に摂ることも有効です。ぬるめのお湯にゆっくりと浸かる入浴は、乱れた自律神経のバランスを整えるのに非常に効果的です。