夏の下痢の原因は、精神的な「ストレス」もまた、胃腸の働きに大きな影響を与え、下痢を引き起こす重要な要因となります。特に、ストレスによって腹痛を伴う下痢や便秘を繰り返す病気である「過敏性腸症候群(IBS)」を持つ人にとっては、夏は症状が悪化しやすい、要注意の季節なのです。夏にストレスが増えやすいのは、まず、うだるような「暑さ」そのものが、私たちの体にとっては大きな身体的ストレスとなります。体温調節のために常に自律神経が緊張状態にあり、体力を消耗することで、ストレスに対する抵抗力が低下してしまいます。また、夏は夏休みや長期休暇、旅行、帰省、お祭りといったイベントが多く、生活リズムが不規則になりがちです。楽しいイベントであっても、環境の変化や準備の忙しさは、知らず知らずのうちに精神的なストレスとなって蓄積されます。これらのストレスは、「脳腸相関」という仕組みを通じて、直接的に腸の働きを乱します。脳と腸は、自律神経やホルモンなどを介して、互いに密接に情報をやり取りしています。脳がストレスを感じると、その情報が腸に伝わり、腸の運動機能や知覚機能に異常を引き起こすのです。過敏性腸症候群の下痢型(IBS-D)の場合、ストレスによって腸の蠕動運動が過剰に活発になり、セロトニンという神経伝達物質の作用で腸管からの水分分泌も増えるため、急な腹痛と共に、水のような激しい下痢が起こります。特に、「通勤電車の中」「大事な会議の前」など、すぐにトイレに行けない状況で症状が出やすいのが特徴です。夏の暑さによる脱水や、冷たいものの摂取は、このIBSの症状をさらに悪化させる要因ともなります。IBSの診断と治療は、主に「消化器内科」や「心療内科」が担当します。まずは内視鏡検査などで、他の病気(炎症性腸疾患など)がないことを確認した上で、症状の問診から診断が下されます。治療は、生活習慣の改善が基本となります。ストレスの原因を把握し、それを避ける工夫をすると共に、十分な睡眠、適度な運動、リラックスできる趣味の時間を持つなど、ストレスマネジメントが重要です。食事では、低FODMAP食(フォドマップ)と呼ばれる、腸で発酵しやすい糖質を制限する食事療法が有効な場合があります。薬物療法としては、腸の動きを整える薬や、近年登場した新しい作用機序の治療薬、あるいは抗不安薬や抗うつ薬などが、症状に応じて用いられます。
原因⑤夏のストレスが引き金?「過敏性腸症候群(IBS)」