大人が経験する「熱のない耳下腺の腫れ」は、一見すると心配ないように思えるかもしれません。しかし、これまで見てきたように、その背景には、単純な炎症から、唾石症、自己免疫疾患、そして稀ではありますが腫瘍まで、実に様々な原因が隠されています。原因によって治療法は全く異なり、中には放置すると重症化したり、長期的な管理が必要になったりする病気も含まれているため、「熱がないから大丈夫」という自己判断は非常に危険です。ここで、耳下腺の腫れに気づいた時の、正しい行動指針を整理してみましょう。まず、第一に行うべきは、「症状のセルフチェック」です。①腫れは片側か両側か、②痛みや熱感を伴うか、③食事の時に症状が変化するか、④腫れは持続しているか、繰り返しているか、⑤口や目の乾きなど、他に気になる症状はないか、⑥いつの間にかできた「しこり」ではないか。これらの点を自分なりに確認することで、医師に症状を伝える際に役立ちます。次に、受診すべき診療科の選択です。耳下腺、すなわち唾液腺の病気を専門的に診断・治療する中心的な診療科は、間違いなく「耳鼻咽喉科」です。耳鼻咽喉科医は、唾液腺の解剖と疾患に精通しており、超音波検査をはじめとする専門的な検査機器を駆使して、腫れの原因を的確に診断することができます。もし、シェーグレン症候群のような全身性の病気が疑われれば、リウマチ・膠原病内科へ、また腫瘍の治療でより高度な手術が必要であれば、頭頸部外科のある専門病院へと、責任を持って橋渡しをしてくれます。内科や歯科で相談することも可能ですが、最終的な診断と治療方針の決定には、耳鼻咽喉科の専門的な視点が不可欠となるケースがほとんどです。耳の下の腫れは、体からの重要なサインです。そのメッセージを軽視せず、不安なまま過ごすよりも、まずは専門医の診察を受け、安心を得ることが、健康を守るための最も賢明な選択と言えるでしょう。