熱はないのに、両方の耳下腺が、なんとなく腫れぼったい状態が数ヶ月、あるいは数年にわたって続いている。そして、その腫れに加えて、「口が異常に渇く(ドライマウス)」や「目がゴロゴロして乾く(ドライアイ)」といった症状を自覚している場合、それは単なる耳下腺炎ではなく、「シェーグレン症候群」という自己免疫疾患の一症状である可能性があります。シェーグレン症候群は、本来は体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の体、特に唾液腺や涙腺といった、潤いを生み出す「外分泌腺」を攻撃してしまう病気です。これにより、唾液や涙の分泌が著しく減少し、ドライマウスやドライアイといった乾燥症状が引き起こされます。そして、免疫細胞が耳下腺などの唾液腺に侵入して慢性的な炎症を起こすため、耳下腺が繰り返し、あるいは持続的に腫れるのです。この腫れは、痛みは伴わないか、あっても軽いことが多く、まさに「熱なしの耳下腺炎」として現れます。シェーグレン症候群は、関節リウマチなどの他の膠原病に合併することもあり、関節痛や全身の倦怠感、発熱、皮膚の発疹といった全身症状を伴うこともあります。この病気は、全身に影響が及ぶ内科的な疾患であるため、診断と治療は「リウマチ・膠原病内科」が専門となります。しかし、最初の窓口として、耳下腺の腫れで「耳鼻咽喉科」を、あるいは目の乾きで「眼科」を受診し、そこから専門医へ紹介されるケースも非常に多いです。診断のためには、血液検査で抗SS-A抗体や抗SS-B抗体といった自己抗体の有無を調べたり、唾液の分泌量を測定する検査(ガムテストなど)や、涙の量を調べる検査(シルマーテスト)、そして確定診断のために、唇の裏側にある小さな唾液腺の組織を少しだけ採取して調べる「口唇生検」などが行われます。シェーグレン症候群を根治させる治療法はまだありませんが、治療の目的は、乾燥症状を和らげて生活の質を維持し、合併症の進行を防ぐことです。人工唾液や唾液分泌を促す薬、人工涙液などが用いられます。持続する耳下腺の腫れと乾燥症状に気づいたら、一度専門医に相談することが重要です。